公開日:2023.11.08

ペルソナ設定とは?: ターゲットとの違いから現場の実践まで

  • 定性調査

マーケティングや開発の現場で顧客を想定する際、ターゲットという言葉で顧客の属性やニーズを定義することが一般的です。しかし、従来のターゲットでは顧客像が明確にならず、より詳細な心理やライフスタイル、行動パターンなどを把握するために用いられるのがペルソナ設定です。ここでは、ペルソナ設定とは何かを解説するとともに、実際の設定事例などを紹介します。
 
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ペルソナとは?

ペルソナとは、顧客の属性や行動パターン、ニーズを具体的に理解するために作成される架空のキャラクターです。マーケティングにおいてペルソナを設定すると、より顧客目線に立った施策の立案につながります。ここでは、ペルソナの重要性や具体的な項目例などについて解説します。
 

ペルソナ設定の定義と重要性

ペルソナとはラテン語で「仮面」という意味を持ち、マーケティングにおいては「架空のユーザー像」を意味する言葉です。ペルソナを設定すると顧客の感じ方、考え方、行動などをイメージしやすくなり、顧客の具体像がより明確化できます。

例えば、ある商品のペルソナが「30代女性、独身、化粧品メーカーの広報部門勤務、月収30万円、趣味は旅行」と設定します。そうすると、商品の特徴や価格、販売チャネル、広告メッセージなどを考えやすくなるのが、ペルソナのメリットです。また、関係者がペルソナのイメージを共有すれば、マーケティングの方向性がブレにくくなります。このようにペルソナ設定は、顧客のニーズや課題を深く理解し、商品やサービスの価値を高める重要な方法です。
 

ペルソナとターゲットの違い

ペルソナと近い意味を持つ言葉にターゲットがありますが、両者には大きな違いが存在します。
まず、一つ目の違いは、ターゲットが集団なのに対し、ペルソナは具体化した個人を指します。ターゲットは特定の属性や需要に基づいて広範なグループを絞り込むことを目的としていますが、ペルソナは個別のユーザー像を描き出すことで、より具体的な顧客像をイメージする役割を果たします。

さらに、二つ目の違いは、ターゲットが実在するのに対し、ペルソナは必ずしも実在する必要がない点です。ターゲットは市場調査やデータ分析に基づいて絞り込まれるため、実際の消費者や顧客が対象となります。一方、ペルソナは架空のキャラクターであり、顧客の特徴や行動を仮想的に具体化した存在となります。
 

ペルソナの具体的な項目例

ペルソナを設定する際は、具体的な人物像を描ける項目を用いることが重要です。以下は代表的な項目の例です。

1. 年齢:対象となる顧客の年齢
2. 性別:男性か女性か
3. 住居:住所や建物、持ち家か賃貸かなど、居住環境
4. 家族構成:結婚しているか、子供の有無、家族の人数など
5. 職業:現在の職業や業種、就業状況
6. 役職:経営者、管理職などの役職や地位
7. ライフスタイル:平日や休日の過ごし方、食生活、旅行など、生活スタイルに関する情報
8. 性格:内向的か外向的か、開放的か保守的かなどの性格や行動特性
9. 交友関係:友人や家族との関係性や交流パターン
10. 趣味:興味や関心のある趣味や娯楽活動
11. 悩み:日常生活や購買における悩みやニーズ

 
これらの項目はペルソナ設定の際、すべてを使用する必要はありません。マーケティングにおける必要な項目を選択し、ペルソナを具体的に描き出しましょう。
 
 

ペルソナを設定するメリット

ペルソナ設定は、マーケティング活動において様々なメリットがあります。それらのメリットを活かすことで、より効率的かつ効果的なマーケティング活動を展開することが可能です。ここでは、ペルソナを設定することで期待できるメリットについて解説します。
 

チーム内での共通認識の形成

マーケティング活動には、開発者やデザイナー、営業や広報など様々な役割や立場の人が関係します。関係する多くの人が、自分の経験や知識に基づいてそれぞれの顧客イメージを持ってしまうと、関係者間で認識のずれが生じてしまいます。
このような場合にペルソナ設定を行えば、関係者における認識のずれを防ぎ、顧客イメージを統一できます。それにより認識をすり合わせる手間が減り、企画や施策の方向性のブレを防止することが可能です。
また、ペルソナにイメージ写真を用いると、より共通認識を持つことが可能です。イメージ写真は、ペルソナの特徴や雰囲気を視覚的に表現できます。これによりペルソナイメージが明確になって、チーム内での共通認識の形成に大きく貢献できます。
 

ユーザー視点での意思決定

現代は価値観が多様化し、ユーザーニーズも細分化しています。この細分化したユーザーニーズに対応しようとすると商品やサービスの特徴があいまいになり、顧客へ強く訴求できない商品やサービスになる可能性があります。
そのような事態を防ぐために、顧客ニーズを明確にするのがペルソナ設定です。ペルソナを通して顧客が何を考え、何を求め、何に困っているのかを理解できれば、目指すべきマーケティングの方向性を明確にできます。
 

顧客に刺さるマーケティングアプローチ

現代は情報があふれ、顧客が利用するメディアは多様化しています。マーケティングにおいて顧客へ効果的なアプローチを行うには、顧客のライフスタイルとマッチするメディアやPR方法を選ぶことが重要です。
顧客は自分のライフスタイルに合ったメディアから情報を受け取り、その情報をベースにニーズを満たそうと考えます。だからこそ、顧客にはどのようなメディアで、どのようにアプローチするかの選択が重要です。このような場合にペルソナを用いれば、顧客のライフスタイルや好み、行動パターンなどが明確になります。例えば、若年層が顧客ならばSNSやオンライン広告を活用したデジタルマーケティング、高齢者であればメールやチラシ、地域のコミュニティを活用した地域密着型のアプローチが適していると想定できます。ペルソナ設定は、顧客の心に響く情報やメッセージを届けるためにも、重要なマーケティング施策です。
 

コストと時間の効率化

ペルソナを設定すると、明確な顧客特性やニーズをベースとしたマーケティング施策を展開できます。これにより、マーケティングの精度が高まり、試行錯誤に費やすコストや時間を減らすことが可能です。
例えば、ペルソナ設定によって、顧客の利用するメディアや効果的なアプローチ方法が分かれば、それに基づいた広告媒体やPR方法をすぐに選択できます。そのため、アプローチ方法に関する試行錯誤が減り、無駄なコストを削減できます。また、社内検討や意思共有にかかる時間も、短縮することが可能です。関係者が統一されたペルソナイメージを持つことで、チームや部署間での情報共有や意思統一がスムーズに行えます。
 
 

実際のペルソナ設定手順

効果的なペルソナを設定するには、顧客のプロフィールや特性を明確に把握し、彼らのライフスタイルに即して作り上げる必要があります。ここでは、効果的なペルソナを設定するための設定手順について解説します。
 

情報収集方法

ペルソナ設定においては、具体的なイメージにつながる情報を集めることが第一ステップとなります。このステップでどれだけ有効な情報を入手できるかが、ペルソナ設定の重要な要素となります。ここでは、顧客へのインタビューやアンケート、各種調査データなどから収集する方法について解説します。
 
ユーザーインタビューやアンケートの活用
ユーザーインタビューやアンケートは、顧客のパーソナルな情報を収集するのに効果的な手法です。これらの調査委において顧客の内面に関する質問を行えば、統計データからでは分かりにくいパーソナルな情報を集められます。特にユーザーインタビューでは顧客から自由な発言を引き出せれば、よりペルソナをイメージしやすい生の情報を集められます。そのためにも、インタビューの際は、顧客が発言しやすい雰囲気づくりに努めましょう。
 
アクセス解析やデータ分析
アクセス解析やデータ分析は、ペルソナの行動面や外面に関する情報を得るのに効果的な手法です。アクセス解析は、ウェブサイトやアプリの数値データを分析することで、顧客の行動や判断に関する洞察を得る手法です。アクセス解析を通じて、ユーザーの行動パターンを分析すれば、顧客の関心やニーズ、価値観を理解し、ペルソナのライフスタイルをイメージしやすくなります。また、人口統計などの各種調査データから、顧客の年齢層、性別、地域などの統計学的な情報を得られます。
 

情報の整理とグルーピング

収集した情報はペルソナをイメージしやすくするために、3つの属性に整理し、グルーピングします。

■デモグラフィック属性
年齢、性別、家族構成、居住地域、職業など、人口統計学的な要素です。これらの属性は、ペルソナの基本的な特徴を把握するのに役立ち、大まかな集団をイメージできます。
 
■サイコグラフィック属性
趣味、嗜好、価値観など、顧客の心理学的な要素です。これらの属性によって顧客の特性やニーズを深く理解でき、顧客の個人像をイメージしやすくなります。
 
■ビヘイビアル属性
習慣、購買履歴、購入場所、情報収集方法など、顧客の行動学的な要素です。この属性に注目することで、顧客の行動パターンや購買行動を把握でき、顧客のライフスタイルが明らかになります。
これらの属性情報を組み合わせることで、ペルソナの具体的イメージが明らかになります。また、組み合わせ方によって複数のペルソナをイメージすることも可能です。

 

具体的なペルソナの構築

ペルソナの構築は、グルーピングした情報をベースに進めていきます。ペルソナを設定する際は、デモグラフィック属性(統計学的要素)、サイコグラフィックな情報(心理学的要素)、ビヘイビアルな情報(行動学的要素)の順に設定すると、ペルソナをイメージしやすくなります。また、構築したペルソナ情報は、「ペルソナシート」としてまとめることが重要です。このシートには、ペルソナの基本情報や特徴、ニーズや課題、嗜好などを明確に記録します。その際、ペルソナをより具体的にイメージするには、写真やイラスト、エピソードストーリーなどを追加すると効果的です。このようにして設定したペルソナは、マーケティング活動の基準として用います。
 
 

ペルソナ設定時の注意点

ペルソナ設定には、マーケティング上の様々なメリットがありますが、その際にいくつか注意すべき点があります。ここでは、ペルソナ設定時の注意点について解説します。
 

理想の顧客像との違い

ペルソナ設定時に注意すべきポイントの一つは、理想の顧客像と混同しないことです。理想の顧客像とは、企業の商品やサービスを利用してくれることが前提になっている顧客像を意味します。ペルソナを設定する際、理想の顧客像を追求してしまうと、ペルソナの現実感が失われてしまいます。ペルソナの設定には、インタビューやデータ分析から得た情報をベースとして、その特徴や嗜好を反映させることが大切です。そうすることが、信頼性の高いペルソナの作成につながります。
 

主観や先入観を排除する

ペルソナはイメージの存在であり、その設定には設定者の主観や先入観が入り込みやすい傾向があります。そのため、ペルソナ設定時には、主観や先入観をできるだけ排除する取り組みが重要です。
設定者が「こんな人がいるはずだ」という主観や先入観だけでペルソナを設定してしまうと、ペルソナは架空の存在となりやすく、現実との乖離が生じます。また、自分たちの期待や予想に基づく設定では、顧客の現実的なニーズや行動パターンを十分に捉えることができません。そのため、ペルソナ設定の際は常に客観的なデータを用いて、主観的な要素を極力排除して進めることが大切です。市場調査や顧客インタビュー、データ分析などで得られた客観的なデータを基に行い、自分達のペルソナ設定が主観や先入観に偏っていないかをチェックしましょう。
 

定期的な見直しとアップデートの必要性

ペルソナ設定は一度設定したら終わりではありません。その理由は、顧客の価値観やライフスタイルが市場や社会の環境変化によって大きく変わるからです。そのため、ペルソナ設定は定期的な見直しやアップデートが必要です。ペルソナをアップデートすることによって、現在の顧客が抱える課題やニーズを正確に反映でき、より効果的なマーケティング活動が可能になります。
定期的な見直しを行う際は、できるだけ最新のデータを用いることが大切です。それにより、ペルソナを現在の顧客に対応した最新の状態に保てます。
 
 

実際の企業でのペルソナ設定例

設定したペルソナは、企業のマーケティング活動等に活用することで、ビジネスにおける様々なメリットを発生させます。ここでは、実際の企業で設定されたペルソナの具体例とともに、失敗例から得られた教訓について解説します。
 

ペルソナの活用事例
■飲食チェーン店の事例
ある飲食チェーン店では、ペルソナとして「29歳の女性編集者」を設定しました。このペルソナは仕事で忙しい毎日を送るとともに、スープが好きで、健康や美容にも気を使っているという設定です。この飲食チェーン店では、設定したペルソナに向けて商品やサービスを開発し、店舗のデザインやメニューの構成などにも反映させました。この結果、多くの女性客を獲得することに成功しました。
 
■空調機メーカーの事例
ある空調機メーカーでは、業務用空調機を販売する際に、「50代男性、空調機設備店の経営者」というペルソナを用いています。このペルソナは20年以上に渡って、設備店を経営しているという設定です。この空調機メーカーは、ペルソナを設定後、1,800社以上にアンケートやインタビューを実施し、ペルソナをアップデートしていきました。その結果、空調機販売店の課題を把握し、その解決を図ることで市場シェアを向上させました。

 

失敗例とその教訓
■ペルソナを理想像にしてしまった
ある飲食店のオーナーは、自分が好きなメニューや雰囲気をベースに、自分と同じような高級志向で健康に気を使っている30代の男性をペルソナにしました。しかし、そのお店は立地的に家族連れや女性グループなどが多く訪れる場所で、現実の顧客との間に乖離が生じました。
このようなケースから学ぶべき教訓は、ペルソナ設定を行う際は自分の考えだけでなく、客観的なデータやフィードバックをベースに設定することが重要だということです。
 
■ペルソナを一度も見直さなかった
あるアパレルブランドは、10年前に「20代女性でファッションに敏感でトレンドを追いかける人」をペルソナとして設定しました。しかし、10年の間にファッショントレンドやユーザーニーズが大きく変化したのに対して、そのブランドはペルソナを一度も見直さなかったため、時代やニーズの変化に対応できなくなりました。
この事例から学べるのは、ペルソナ設定は一度で終わりではなく、最新の市場環境やユーザーニーズを反映するために、定期的な見直しやアップデートが必要だということです。
 
■ペルソナを社内で共有しなかった
あるIT企業は、新サービスを開発する際に「中小企業の経営者でITに疎くて困っている人」をペルソナとして設定しました。しかし、このペルソナは開発部門だけで作成され、他の部門と共有されていませんでした。そのため、他の部門はITに詳しい人たち向けの広告や営業を行い、新サービスの売上は伸びませんでした。
この事例からは、ペルソナは社内で共有し、関係者間でイメージ共有や連携を図らないと、マーケティング活動がうまくかみ合わず、成果につながらないという教訓が学べます。

 
 

まとめ

ここまで、ペルソナ設定について解説しました。
現代は様々な商品やサービスがあふれる時代で、顧客は「比較的良いもの」ではなく「自分にフィットするもの」を求めています。このような顧客ニーズに対応するためには、ペルソナ設定で狙うべき個人像を明確にし、顧客ニーズにフィットしたマーケティング施策が必要です。調査などで得られた客観的データに基づいて設定したペルソナを活用し、より効果的なマーケティング活動を通して、ビジネスの成功へとつなげていきましょう。
 

執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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