公開日:2024.07.16

シンガポールで意外な日本製品がヒット!? ~ジョブ理論で見えてくる消費者の行動心理~

  • マーケティングリサーチHowto

東南アジアの中心都市として発展を続けるシンガポール。多民族国家であるシンガポールは、文化的な多様性だけでなく、経済的な豊かさも実現しており、一人当たりのGDPは日本を超え、アメリカに匹敵する水準となっています。
 
親日国としても知られるシンガポールには、多くの日本企業が進出しており、日本の製品やサービスは、高品質で信頼性が高いというイメージから、現地の人々に広く受け入れられています。そんなシンガポールで、意外な日本製品が人気を集めていることをご存知でしょうか?
 
その商品とは、寒い冬に体を温めるための「使い捨てカイロ」です。年間を通して気温の高いシンガポールで、なぜ使い捨てカイロが売れているのでしょうか?一見すると矛盾しているように思えるこの現象。それを紐解く鍵となるのが、「ジョブ理論」というマーケティング理論です。
 
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「ジョブ理論」とは?

ジョブ理論とは、消費者が商品を購入する根底にある「ジョブ(顧客が成し遂げたいこと)」を明らかにすることで、消費者の行動心理を理解しようとするマーケティング理論です。消費者は、何かを達成したい、問題を解決したいといった欲求(ジョブ)があり、それを解決するために商品やサービスを購入します。
 
有名な例として、「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という言葉があります。ドリルという製品そのものではなく、ドリルを使って開けた「穴」が欲しい、つまり「穴を開けたい」というジョブを解決するためにドリルを購入しているのです。
 
ジョブ理論では、消費者が商品そのものではなく、商品によって得られる結果や体験に価値を見出していると捉えます。
 
 

シンガポールにおけるカイロの意外なジョブ

アスマークのパートナーである株式会社インディージャパンが、シンガポールで実施したジョブ調査では、現地の人々へのインタビューや観察を通じて、「使い捨てカイロ」が様々なジョブを解決するために購入されている実態が明らかになりました。
 
具体的には、以下4つです。

  1. 筋肉痛を和らげたい
  2. 生理痛を和らげたい
  3. 屋内のクーラーの寒さを和らげたい
  4. 寒い国への旅行時に使いたい

 
これらのジョブは、シンガポールという国の気候や文化、人々のライフスタイルと密接に関係しています。例えば、「屋内のクーラーの寒さを和らげたい」というジョブは、年間を通して気温の高いシンガポールでは、屋内は強力な冷房によって冷やされていることが多く、冷房による冷え性に悩む人が少なくないという実態を反映しています。
 
また、「生理痛を和らげたい」というジョブに関しては、シンガポールでも、生理痛に悩む女性たちは、従来、湯たんぽなど様々な方法を試してきました。しかし、湯たんぽは、お湯の入れ替えが面倒だったり、火傷の危険性があったりするなどの課題がありました。
 
そこに登場したのが、使い捨てカイロです。手軽に使えて、コンパクトで持ち運びにも便利な点が、シンガポール女性のニーズに合致し、支持を集めているのです。
 
 

ジョブ理論が明かす、カイロ成功の理由

今回の調査結果をジョブ理論のフレームワークに当てはめて考えてみると、シンガポールにおける「使い捨てカイロ」の成功理由は、以下の4つの力のバランスによって説明できます。

  • 現状の解決策への不満

    従来の解決策(湯たんぽなど)は、手間がかかったり、不便な点があったりした。

  • 新しい解決策の魅力

    使い捨てカイロは、手軽で便利、コンパクトで持ち運びしやすいといった魅力があった。

  • 新しい解決策への不安

    使い捨てなので環境負荷が気になる、効果があるのか不安といった声もあった。

  • 既存習慣

    湯たんぽなど、従来の解決策を使う習慣があった。

 
シンガポールの人々にとって、使い捨てカイロの魅力が、不安や既存習慣を上回るほど大きかったため、使い捨てカイロの利用が広がったと考えられます。
 
 

ジョブ理論から見えてくるマーケティング戦略

今回の調査結果は、私たちに重要なことを教えてくれています。それは、消費者の行動を理解するには、商品そのものの機能や特徴を見るのではなく、消費者が「どんな目的(ジョブ)でその商品を使うのか」という視点を持つことが重要であるということです。
 
企業は、このジョブ理論をマーケティング戦略に活用することで、以下のような3つの効果が期待できます。

  • 潜在ニーズの発見

    従来の市場調査では見えてこなかった、消費者の潜在的なニーズを捉えることができる。

  • 競争優位の確立

    消費者のジョブを深く理解することで、競合他社との差別化を図り、独自のポジションを築くことができる。

  • 新商品開発のヒント

    消費者のジョブを起点に、今までにない新しい商品やサービスを生み出すことができる。

 
例えば、使い捨てカイロを例にとると、以下のようなマーケティング戦略が考えられます。

  • 意外なジョブをターゲットとしたプロモーション

    生理痛緩和など、従来想定していなかったジョブをターゲットに、新たな顧客層への訴求を行う。

  • 競合商品との差別化

    鎮痛剤や温熱シートなど、同じジョブを解決する競合商品との比較優位性を明確にする。

  • 新商品開発

    女性向けのデザインや香り付きなど、特定のジョブに特化した商品開発を行う。

 
 

まとめ

シンガポールにおける使い捨てカイロの事例は、ジョブ理論の有効性を示す好例と言えるでしょう。消費者の行動を深く理解し、そのジョブを解決する商品やサービスを提供することで、顧客満足を高め、企業の成長につなげていくことが、これからの時代ますます重要になっていくと考えられます。
 

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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