公開日:2024.09.09

キャズムとは?キャズムを超える戦略と原因、事例、理論について解説

  • マーケティングリサーチHowto

現代では、多くの企業が革新的なアイデアを持った商品やサービスを、市場に投入しています。しかし、それらの多くが、日の目を見ることなく消えていくのが現実です。このように画期的な製品であっても、市場に受け入れられない大きな課題の一つとして、「キャズム」という概念が存在します。
 
この記事では、この「キャズム」という概念について深く掘り下げ、その考え方やキャズムを乗り越えるための戦略について、解説します。
 
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キャズムとは

キャズムとは、技術革新や新製品が、市場に浸透する過程で直面する重要な障壁のことです。具体的には、初期市場層とメインストリーム市場層との間に生じる深い溝のことを意味します。
 
これら二つの市場の間には、価値観やニーズに大きな隔たりがあり、初期市場での成功が、メインストリーム市場での成功を保証するわけではありません。多くの革新的な製品やサービスは、このキャズムを超えられずに、市場から姿を消していきます。

Tips

初期市場層:キャズム以前のイノベーターアーリーアダプターが構成する。それぞれ後述します。
 
メインストリーム市場層:キャズム以降のアーリーマジョリティレイトマジョリティが構成する。それぞれ後述します。

 
 

キャズム理論とは

キャズム理論とは、技術革新や新製品が、市場に浸透する際に直面する「キャズム」と呼ばれる障壁を説明するための理論です。この理論は、アメリカのマーケティングコンサルタントであるジェフリー・ムーア氏によって提唱され、特にハイテク業界における製品の普及プロセスを理解する重要なフレームワークとなっています。
 
ここでは、キャズム理論の詳細とその背景を解説し、キャズムが市場でどのように形成されるのかを解説します。
 

キャズムが生じる主な原因

キャズムが生じる主な原因は、初期市場とメインストリーム市場のニーズや期待の違いにあります。
 
初期市場を構成するイノベーターやアーリーアダプターは、技術的な優位性や革新性を重視する購買層です。彼らは、製品が未完成であったり、価格が高かったとしても、革新性などに魅力を感じたりすれば、進んで購入します。
 
一方、メインストリーム市場に属するアーリーマジョリティやレイトマジョリティは、安定性や信頼性、実績を重視し、広く支持される製品を求める購買層です。この購買に対する価値観のギャップが、初期市場で成功した製品がメインストリーム市場で受け入れられるのを妨げる原因となります。
 
また、製品の使いやすさや価格、サポート体制の充実度なども、キャズムを乗り越える上での重要な要素です。これらの問題をクリアしないと、製品がメインストリーム市場に受け入れられず、姿を消す可能性が高まります。
 

キャズム理論とイノベーター理論の関係

キャズム理論とイノベーター理論は、どちらも市場における製品の普及過程を理解するためのフレームワークです。しかし、それぞれ異なる視点から、市場の力学を説明しています。
 
イノベーター理論は、スタンフォード大学のエベレット・ロジャースによって提唱され、技術や製品の普及が「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」の5つの採用者カテゴリに分かれることを示しました。この理論は、普及過程が段階的に進行することを前提として構築されています。
 
一方、キャズム理論は、これらの採用者カテゴリ間に存在する「キャズム」、特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にある大きなギャップに注目した理論です。キャズム理論は、イノベーター理論が示す普及過程は必ずしもスムーズではないと考えています。そのため、このキャズムを越えることが、製品がメインストリーム流市場で成功するための重要なステップであると指摘しています。
 
これら二つの理論は、イノベーター理論が普及の全体像を描く一方で、キャズム理論がその過程における最も困難な部分を明らかにするという補完的な関係です。
 
 

イノベーター理論とは

イノベーター理論とは、新しい技術や製品が市場に浸透する際の消費者行動を分析するためのフレームワークです。この理論は、消費者を5つのタイプに分類し、それぞれのグループがどのような特性を持ち、どのように製品を購入するかを説明しています。
 

イノベーター理論の5つのタイプとは

イノベーター理論の5つのタイプとは、新しい技術や製品を購入する際の消費者を5つのタイプに分類するものです。それぞれのタイプは、製品を購入する際の動機やタイミングが異なります。
 
イノベーター(革新者)
イノベーターは、市場全体の2.5%を占め、新製品が未完成であったり、価格が高くても、その潜在的な可能性や技術的な優位性を見出したりして進んで(積極的に)購入する層です。彼らは、新製品を試すこと自体に喜びを感じ、市場に新たなトレンドを生み出す原動力となります。
 
アーリーアダプター(初期採用者)
アーリーアダプターは、市場全体の13.5%を占め、新製品の価値をいち早く理解し、周囲にその魅力を伝えるオピニオンリーダー的存在です。彼らは、新製品が生活にもたらすメリットを重視し、市場でのトレンドを形成する上で重要な役割を果たします。
 
アーリーマジョリティ(前期追随者)
アーリーマジョリティは、市場全体の34%を占め、慎重かつ合理的な購買層で、製品が自分の生活や仕事に役立つことを重視し、価格に見合う価値があるかを慎重に見極めます。メインストリーム市場での拡大を図るには、この層の支持を得ることが重要です。
 
レイトマジョリティ(後期追随者)
レイトマジョリティは、市場全体の34%を占め、保守的で、新しいものへの抵抗感が強い層です。彼らは、周囲の人々が新製品を使用し、その効果や安全性が証明されてから、ようやく購入を検討します。
 
ラガード(遅滞者)
ラガードは、市場全体の16%を占め、最も保守的で、新しい技術や製品に対して強い抵抗感を抱く層です。彼らは、従来の製品やサービスに満足しており、新しいものを試すことに、とても消極的です。
 
イノベーター理論のグラフ
 
ご紹介した5つのタイプは、上図のような釣鐘型のグラフで表されます。この「イノベーター 2.5%」や「ラガード 16.0%」といった数値は市場の割合を示します。
 
「イノベーター理論とは?5種類のタイプと事例、分析についてわかりやすくご紹介」はこちら>
 

Tips:プロダクトライフサイクル
プロダクトライフサイクルとは、商品が市場に投入され、姿を消すまでの流れを4つのステージに分けたモデルのことを言います。言い換えると、その市場における製品需要の『寿命』を示しているようなものです。そのイメージ図が下図となります。
 
製品ライフサイクルとイノベーター理論のグラフ
この図をご覧いただくと、イノベーター理論が含まれていることがわかります。商品の導入期には「イノベーター、アーリーアダプター」が顧客となり、成長期には「アーリーアダプター、アーリーマジョリティ」が顧客に、成熟期には「レイトマジョリティ、ラガード」が顧客、衰退期には「ラガード」が顧客といった具合です。
 
そして、キャズム理論を加味して考えると、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にキャズムがあり、プロダクトライフサイクルでは、導入期と成長期の間くらいにあります。そのため、イノベーター理論の消費者行動を知り、プロダクトライフサイクルの流れを知り、キャズム理論の溝を知ることで、次にご紹介する「キャズムを超える戦略」などについて理解度が深まるので、『プロダクトライフサイクル』もおさえておきましょう。

 
 

キャズムを超える戦略とは

技術革新や新しい製品がキャズムを超えるためには、初期市場とメインストリーム市場のニーズのギャップを埋め、アーリーマジョリティを獲得するための戦略が必要です。キャズムを越えるための代表的な戦略には、以下のようなものがあります。
 
ターゲット市場の明確化と絞り込み
特定のニッチ市場に焦点を当て、その市場における顧客ニーズを徹底的に理解し、製品やサービスを最適化します。
 
製品の完成度と使いやすさの向上
アーリーマジョリティは、製品の完成度や使いやすさを重視します。そのニーズに対応するため、問題点の修正や機能改善を行うことで、製品の満足度を高めます(※ホールプロダクト[完全な製品]を生み出すことが求められている)。
 
信頼性と安心感の醸成
第三者機関による認証取得、お客様窓口の設置、充実したサポート体制などを通じて、製品の信頼性と安心感を高めます。
 
価格戦略の見直し
アーリーマジョリティは価格にとても敏感です。そこで、適切な価格設定を行い、コストパフォーマンスを向上させます。
 
マーケティング戦略の転換
初期市場とは異なるマーケティングチャネルを活用し、「生活が豊かになる」というメッセージをアーリーマジョリティにアピールします。
 
オピニオンリーダーの活用
アーリーマジョリティは口コミや評判など、身近な人の意見をとても重視します。そこで、インフルエンサーを活用し、製品の認知度と信頼性を高めます。
 
 
これらの戦略を組み合わせることで、キャズムを超え、新製品やサービスを市場に広く普及させることが可能です。ただし、それぞれの製品やサービス、市場環境によって最適な戦略は異なるため、柔軟な対応が求められます。
 
 

キャズムを超えた成功事例と超えられなかった失敗事例

キャズムを超えることは、新しい技術や製品が市場で広く受け入れられるために、解決すべき課題です。しかし、すべての企業がこの課題をクリアできるわけではありません。
 
ここでは、キャズムを乗り越えてメインストリーム市場での地位を確立した事例と、逆にキャズムを越えられなかった事例を紹介します。
 

キャズム超えの成功事例
製品カテゴリ 事例内容
オフィスコーヒー ある食品会社が展開した本格的なコーヒーマシンは、価格設定の問題でメインストリーム市場への展開に苦心していました。そこで、この企業は、オフィスに無料で本格的なコーヒーマシンを設置するというサービスを展開し、その手軽さと様々な種類のコーヒーを楽しめるという魅力を伝えました。
 
その結果、アーリーマジョリティの心を掴み、オフィスコーヒー市場における圧倒的なシェア獲得につながりました。
掃除機 ある家電会社の掃除機は、新しい吸引テクノロジーとスタイリッシュなデザインという革新性を備えていました。しかし、当初は高価格ということもあり、アーリーアダプター層への訴求が中心でした。
 
その後、性能の高さとデザイン性の高さがアーリーアダプターに支持され、その魅力が口コミで広がり、アーリーマジョリティ層にも受け入れられました。その結果、キャズムを超えることに成功し、メインストリーム市場でも大きなシェアを獲得しています。
音楽プレーヤー あるITメーカーは携帯型のデジタル音楽プレーヤーを発売し、初期市場において高い人気を獲得しました。その後、メインストリーム市場に進出するために、その企業はPCの音楽プレイヤーソフトと連携させることで、音楽を簡単に管理や購入できる仕組みを提供し、一般消費者の利便性を高めました。
 
この戦略により、この携帯型デジタル音楽プレーヤーはメインストリーム市場で大成功を収め、音楽プレーヤー市場を一変させました。

 

キャズム超えの失敗事例
製品カテゴリ 事例内容
電動立ち乗り二輪車 ある電動立ち乗り二輪車は、発表当初、画期的な移動手段として世間から大きな注目を集めました。しかし、高価格や公道での走行制限、安全面への懸念などからアーリーマジョリティ層の支持を得られず、キャズムを超えられませんでした。
 
現在では、観光地でのレンタルや警備用途など、ニッチな市場での利用が中心となっています。
眼鏡型のウェアラブル端末 あるメガネ型のウェアラブル端末は、革新的なデバイスとして、初期市場で注目を集めました。しかし、高価格やプライバシー問題、デザインの違和感などの問題点があり、アーリーマジョリティ層から支持されず、キャズムを超えられませんでした。
 
結果として、一般消費者向けだけでなく、産業用でも販売が終了となりました。
3Dテレビ 3Dテレビは、臨場感あふれる映像体験を提供する技術として、家庭向けの普及が大きく期待されていました。しかし、視聴には専用のメガネが必要なことやコンテンツの不足、価格の高さなどが普及を阻害し、キャズムを超えられませんでした。
 
結果として、市場からは姿を消し、現在はほとんど販売されていません。

 
 

まとめ

ここまで、新製品やサービスが市場に受け入れられる過程で直面する「キャズム」について解説しました。
 
キャズムが生じる原因は、初期市場とメインストリーム市場における顧客のニーズや価値観の大きな違いにあります。この顧客層特性の違いを深く理解することが、キャズムを超えるためのマーケティング戦略へとつながります。
 
成功事例と失敗事例から学べるように、キャズムを超えるためには、技術的な革新性だけでなく、アーリーマジョリティ層のニーズを満たす製品設計や価格設定、プロモーションが必要です。キャズム理論を理解し、適切なマーケティング戦略を立てることで、新製品やサービスの普及を図っていきましょう。
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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