公開日:2025.04.17

経験サンプリング法(ESM)とは?

  • マーケティングリサーチ用語解説集

経験サンプリング法とは

経験サンプリング法は、Experience Sampling Methodの略でESMと呼ばれることもあります。主に学術研究において用いられる用語で、調査被験者に日常生活のなかで一日数回ずつ数日間にわたって繰り返しデータを取得する調査手法のことです。日常生活のなかで被験者が経験するあらゆる出来事に対する感情・思考・行動などのデータをリアルタイムで収集できるため、事象の発生頻度やその状況の詳細、時系列推移などを知ることができます。

 
 

経験サンプリング法のメリット

質問紙調査やインタビュー調査などと異なり、あいまいな記憶に頼らずリアルタイムなデータを収集できます。また、繰り返しデータを収集することで、時系列的な推移の追跡ができることが特長です。
調査被験者が、いつ、どこで、何を考え、どのように感じ、どういう行動をとったのかについて、時間経過や経験につれ、それがどのように移り変わるのかを把握することができます。
 
 

経験サンプリング法のデメリット

データ収集の方法が課題となることが多いです。通常、被験者がスマートフォンなどのデバイスを通してデータ収集専用ツールにアクセスし、画像やコメント、アンケートデータなどを格納する形でデータ収集を行います。そのため、被験者が持つデバイス環境が専用ツールに対応できているかどうか(古い機種では対応できないなど)が求められます。
また、そもそもデータ収集専用ツール自体が市場に少ないことも課題に挙げられるでしょう。最大のメリットであるはずのリアルタイムなデータということを保つためには、日常生活のなかで被験者にその場その場でデータを格納してもらう必要があるため、忘れてしまうことを防がなければなりません。ツールから定期的にお知らせが届くなどの喚起も重要となります。
 
 

経験サンプリング法が活躍するシーン

経験サンプリング法は、被験者の日常生活の中にある“リアルな瞬間”を捉える調査手法であり、以下のような分野やテーマで特に有効性を発揮します。

  1. 感情・心理の変化を捉える心理学・精神医学領域
    経験サンプリング法は、感情の揺らぎやストレス、幸福感などの心理状態をリアルタイムで記録するのに最適です。例えば、「通勤時のストレスレベルの変化」「勤務中に感じる達成感や不安」「対人関係の影響を受けた気分の推移」など、時間帯や状況に応じて生じる心の変化を細やかに追跡できます。従来のように1回限りのアンケートや事後インタビューでは見えにくかった“時系列的な心の動き”を記録できるため、メンタルヘルスの評価や介入効果の測定にも用いられています。
  2. 習慣的行動とその背景要因の把握
    喫煙や飲酒、運動、間食、スマートフォンの使用といった日常的な習慣は、意図や気分、周囲の状況など、さまざまな要因によって左右されます。経験サンプリング法を活用することで、「どのような気分のときに間食をしているのか」「運動後の達成感が継続するのはどれくらいか」といった習慣行動の背景や結果まで含めた一連のプロセスを定量的に把握できます。行動科学やヘルスケア分野における介入設計にも大きく貢献します。
  3. 複雑な業務や対人対応が求められる現場での活用
    教員、看護師、介護士、保育士といった職種では、対人関係の中で瞬時に判断を求められることが多く、日々の業務は定型化しにくいものです。経験サンプリング法を活用すれば、業務中の感情の起伏やストレス要因、達成感の源泉といった“場面ごとの体験”を蓄積でき、現場改善や労働環境の評価にもつながります。とくに近年注目される「感情労働」の負荷の可視化にも寄与します。
  4. マーケティング分野における消費者行動分析
    学術以外の応用例として、マーケティングリサーチでも経験サンプリング法が活用されています。たとえば、「商品の使用タイミングやその場の印象」「購入前後の気持ちの変化」「競合製品との比較をどのような場面で行ったか」など、従来は事後的にしか把握できなかった“その時のリアルな消費者体験”を、時系列で収集・分析することができます。これにより、商品改善や販促戦略へのフィードバックがより実態に即したものになります。

 
 

経験サンプリング法の注意点

リアルタイムでのデータ収集が可能という点で大きなメリットを持つ経験サンプリング法ですが、その導入・運用にあたっては、いくつかの重要な注意点もあります。以下に、代表的な課題とその対策をご紹介します。

  1. 被験者への負担と継続性の確保
    経験サンプリング法では、1日あたり複数回、数日〜数週間にわたり回答を求めることになります。そのため、被験者にとっての心理的・時間的負荷が大きくなりがちです。「通知が届いてもすぐには対応できない」「繰り返し入力に飽きてしまう」といった理由で、入力漏れや離脱が発生するケースも少なくありません。
    このような事態を防ぐには、事前に調査の意義や目的を丁寧に説明し、被験者が自らの役割を理解・納得したうえで参加してもらうことが重要です。また、リマインド機能付きの専用ツールや、入力回数に応じたインセンティブ制度の導入なども有効です。
  2. 入力内容の精度にばらつきが出やすい
    経験サンプリング法では「その瞬間に感じたこと」を被験者に記録してもらう必要がありますが、記録の内容や表現方法に個人差が出やすいのも事実です。記録の粒度が粗い、自由記述の内容が曖昧、記入のタイミングが遅れるなど、分析に支障が出る可能性があります。
    そのため、記入方法に関してはあらかじめガイドラインを設けることが重要です。自由記述の際の例示や、選択肢付きの質問を併用することで、データのばらつきを抑えられます。
  3. ツールやデバイス環境への対応
    経験サンプリング法の多くはスマートフォンやタブレットを使ってデータを入力する形になりますが、被験者の端末が調査ツールに対応していない場合や、通知設定・通信環境の違いによって、うまく調査が進行しないケースも見受けられます。
    調査前に端末の対応可否を確認し、必要に応じて操作方法のサポートや事前テストを行うことで、トラブルの未然防止につながります。調査の精度を保つうえでも、ITリテラシーの差への配慮は欠かせません。
  4. 被験者のモチベーション維持が不可欠
    経験サンプリング法の成功には、被験者の継続的な協力が前提となります。「途中でやめたくなった」「つい入力を忘れてしまった」といった事態を防ぐためには、調査自体の設計だけでなく、被験者のモチベーション維持も意識する必要があります。
    たとえば、調査期間中にメッセージでねぎらいや進捗報告を送る、ポイント制インセンティブを導入する、事後にフィードバックレポートを提供するなど、小さな仕掛けが被験者の参加意欲に大きく影響します。

 

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経験サンプリング法と日記調査

マーケティングリサーチの調査手法のひとつで、日記調査(日記法)というものがあります。日記調査とは、一定期間継続して、対象者にWEB上の日記システムを利用して、生活行動や利用シーンの写真、商品利用の感想などを記録してもらう調査手法のことです。一定期間継続するので、期間中の行動の変化、気持ちの変化を把握することができます。
お気づきかと思いますが、日記調査は、まさに経験サンプリング法と同じ意味合いの調査となります。日記調査の専用ツールを持つリサーチ会社であれば、経験サンプリング法にも対応できるでしょう。

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最後に

経験サンプリング法に参加してくれる被験者がデータの格納を忘れてしまうことを防ぐためには、被験者が「自分は調査に参加しているんだ」という意識づけが何より重要となります。条件に合致する方であれば誰でも参加を求めるのではなく、きっちり回答してくれる調査モニターが被験者に向いているでしょう。
経験サンプリング法をご検討であれば、調査モニターと日記調査専用ツールを保有するリサーチ会社に相談してみることをお勧めします。
 
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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スマホを利用して簡単に投稿することができますので、食事日記や美容手入れ状況等を撮影し投稿してもらうなど、エスノを目的とした訪問観察調査の代わりに、利用することもできます。
また、参加者が投稿するだけではなく、投稿の内容について、管理者から1対1で直接質問するなど、システムを通じたコミュニケーションによって、 より深く消費者心理にせまることができます。

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