公開日:2023.08.03

臨床試験のスクリーニングとは?その重要性とプロセスを解説

  • 学術調査

臨床試験のスクリーニングとは、新しい医薬品や医療機器の安全性や有効性を確認する臨床試験において、被験者の適格性や同意の確認を行うことです。臨床試験への参加は、希望者が基準を満たしていれば、被験者本人の自由意思で参加することができます。
 
しかし、臨床試験への参加を決定するには、本人へ臨床試験の目的や内容、リスクや期待される効果などを十分に説明し、同意書に署名してもらう必要があります。
 
臨床試験のスクリーニングは臨床試験の品質や信頼性とともに、被験者の安全を確保するために非常に重要なプロセスです。本記事では、スクリーニングの概念と重要性、各段階、倫理的観点について解説します。
 

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臨床試験のスクリーニングの概念と重要性

臨床試験のスクリーニングとは被験者の適格性や同意確認など、臨床試験に参加する前に行われる一連の手続きです。スクリーニングは被験者の権利や安全を守るとともに、臨床試験の科学的な信頼性を高めるためにとても重要な作業です。
 
ここでは、臨床試験とスクリーニングの概念を紹介するとともに、その重要性について解説します。
 
 

臨床試験の定義とその目的

臨床試験とは人間を対象として、薬や医療機器など病気の予防・診断・治療に関わる様々な医療手段について、その有効性や安全性などを確認するために行われる試験です。臨床試験には、新しい医薬品や医療機器の安全性や有効性を確認するための治験と、既存の医療技術の改善や比較などを目的とした治験以外の臨床試験があります。
臨床試験は、厚生労働省が定めた各種指針や臨床研究法という法律に則って行なわれます。臨床試験を行う際は、開始前に倫理委員会で安全性や妥当性についての審査と承認が必要です。
 
臨床試験は新しい医療技術の開発や既存の医療技術の改善に貢献し、病気の治療や社会福祉の増進を目的として行われています。
 
 

スクリーニングプロセスの基本的なフロー

臨床試験のスクリーニングプロセスとは、臨床試験に参加する被験者に対して、説明、同意、選択や除外を行う一連の流れです。基本的に以下のフローで進められます。
 
 
 
スクリーニング基準の設定

臨床試験の目的や内容に応じて、被験者に求められる条件(適格基準)や除外される条件(不適格基準)を明確に定めます。例えば、年齢や性別、病歴や薬物使用歴、合併症やアレルギーなどが基準選定の対象項目となります。
 
 
 
スクリーニングの実施

医師などの責任者や担当者が、被験者に対して口頭や書面で臨床試験の内容やリスク、期待される効果を説明した上で、本人から同意書を得ます。その後、検査内容やスクリーニング基準に沿って、被験者の身長、体重、体温、血圧、採血、呼吸器検査、心電図、CTスキャン、問診などを行い、適格性を判定します。
 
 
 
スクリーニング結果の報告

スクリーニングの結果、適格と判定された被験者は臨床試験に参加することができます。スクリーニングの結果は、臨床試験依頼者や倫理委員会などに報告されます。
 
臨床試験で実施される内容は、事前に基礎研究や動物実験を通して人体への影響を充分に検討しています。しかし、その有効性や安全性は、被験者の条件次第では、絶対に問題ないと保証するものではありません。(例えば、アレルギーがある、ペースメーカーをしているなど)
だからこそ、臨床試験を実施する際は、被験者の適格性を慎重に検討し、臨床試験の「安全性」「倫理性」「計画性」を確保することが、スクリーニングの重要な役割です。
 
 

スクリーニングの各段階

スクリーニングには大きく分けると、3つの段階があります。ここでは各段階において、どのような作業が行われるかについて解説します。
 
 

患者同意取得(インフォームド・コンセント)

インフォームド・コンセントとは、臨床試験などの被験者がその内容やリスク、期待できる効果についてよく説明を受け、自らの自由意志に基づいて納得した上で参加を合意する(または拒否する)ことです。インフォームド・コンセントは、被験者の知る権利、自己決定権、自律の原則を尊重することで、患者の尊厳を守るとともに、医療の倫理性を確保するための重要な作業です。
インフォームド・コンセントは、以下のステップによって進められます。
 
 
 
情報提供

被験者に対して臨床試験の名称・内容・期待される結果・代替方法・副作用・成功率・費用・予後などの正確な情報の説明を行います。これらの情報提供は被験者の状況に合わせて、臨床試験の正しい内容を理解できる説明が必要です。
 
 
 
意思決定

被験者が医療従事者から提供された情報と自分の価値観や生活状況を考慮して、臨床試験に参加するかどうかを決定します。参加への意思決定は、被験者の自由意志に基づいて行われる必要があります。
 
 
 
同意書の取得

被験者から、自由意思で参加決定したことを証明する同意書を取得します。同意書は、被験者が臨床試験の内容を十分に理解し、納得した上で署名することが大切です。
 
 
撤回可能性の説明

被験者がいつでも臨床試験への同意を撤回できる旨を伝える必要があります。撤回可能性を保障することは、被験者の自己決定権を確保するために、とても重要な作業です。
 
 
適格性の確認

適格性の確認とは臨床試験の被験者が、事前に定められた選択基準や除外基準に合致するかどうかを確認する作業です。適格性の確認は被験者の均質性や代表性を保障することで、臨床試験結果の信頼性を高めるために重要な作業です。
 
適格性の確認には、以下の要素が必要となります。

● 選択基準
年齢や性別、病歴、合併症の有無など、被験者に必要な特徴や条件。
 
● 除外基準
アレルギー歴や薬剤使用歴、重篤な合併症など、被験者が持っていてはならない特徴や条件。
 
● 適格性チェックシート
 
被験者が選択基準と除外基準に合致するかどうかを記録する文書。適格性チェックシートの記入は、担当者が被験者の背景情報や検査結果などを確認した上で記入します。
適格性を確認する際、選択基準や除外基準に不適切な内容があると、被験者の人数が不足したり、偏りが生じる場合があります。選択基準や除外基準を定義する際は事前にその妥当性をしっかりと検討し、内容を明確にすることが必要です。
また、適格性チェックシートの記入に漏れや誤りが発生すると、被験者のデータが正確に反映されず、分析結果の信頼性を損なうケースが考えられます。適格性チェックシートは、担当者がしっかりと内容を記入するとともに、記入者以外の人による確認を行う必要があります。

 
 

登録とランダム化

適格性の確認を行い適格性チェックシートを作成した被験者には、登録番号を付与して登録を行います。登録番号は被験者の個人情報を保護するとともに、臨床試験のデータ管理や分析を効率化するために重要な作業です。
登録を行った被験者は、臨床試験の内容に応じて2つ以上のグループに確率的に割付します。この作業がランダム化です。
 
ランダム化は主に以下の割付方法によって行われます。

● 静的割付
臨床開始前に被験者の割付順序が決められていて、開始後はそれに従って割り付ける方法です。被験者の登録状況によって割付を変化させないことで、統計的な妥当性を確保する効果があります。
 
 
● 動的割付
被験者が登録されるごとに、ある特定の要素がグループ間で不均衡を起こさないようにチェックして割付する方法です。特定要素の不均衡を調整することで、被験者の登録状況に応じて統計的妥当性を確保する効果があります。

 
 

スクリーニングの倫理的観点

臨床試験は一定の安全性が確認された上で行われますが、被験者にある程度のリスクが発生することは避けられません。そのため、臨床試験スクリーニングには、被験者の人権や自己決定権、プライバシー、データ保護などの倫理的な観点を考慮する必要があります。
ここでは倫理的観点において、被験者を保護する取り組みについて解説します。
 
 

倫理委員会の役割とその重要性

倫理委員会とは、臨床試験を実施する際に設置する独立した委員会です。臨床試験に参加する施設には、倫理委員会の設置が義務付けられています。
倫理委員会は臨床試験の内容が、厚生労働省が定める「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」*1に基づいて計画、実行されているかを判断し、実施や継続の可否についての意見を述べます。
 
 

*1厚生労働省 「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」
倫理委員会はスクリーニングに用いられる選択基準や除外基準が、科学的観点や倫理的観点から適切であるかどうかを審査します。また、被験者がスクリーニングへの参加に同意する前に、臨床試験の目的や方法、リスクや期待できる効果、権利や責任などが説明され、自発的に同意しているかの監督も、重要な役割の一つです。
スクリーニングが開始されると、倫理委員会はその実施状況を定期的にモニタリングし、問題が発生した場合には改善策を提案します。このモニタリングにより、臨床試験スクリーニングは適正さや安全性を確保でき、被験者の保護や研究品質の向上へとつながります。
以上のように、倫理委員会は臨床試験におけるスクリーニングに関して多岐にわたる役割を果たし、その重要性の高い役割を担っていると言えます。

 
 

プライバシーとデータ保護

臨床試験においては、被験者の個人情報や医療情報などのプライバシーを適切に取り扱い、不当な開示や利用から守る必要があります。被験者のプライバシーを守ることは、被験者の人権や自己決定権を保障することによって、参加意欲や信頼を高めて臨床試験に適切な実施にするための不可欠な要素です。
 
被験者のプライバシーを保護するためには、以下のような措置が必要となります。

● 被験者への十分な説明と自由意思による同意
● 個人情報の最小限化と匿名化
● 個人情報の適正な管理と安全対策
● 個人情報の第三者提供や二次利用の制限
● 個人情報の開示や訂正などの権利の尊重

 
 
 
臨床試験におけるプライバシーの保護は、薬事法や個人情報保護法や医師法などの関連法規に従って行われます。
臨床試験によって得られたデータは、適切に管理して不正なアクセスや漏洩、改ざんなどから保護することが重要です。そこで、臨床試験データを保護するために、個人情報保護法が基本的なルールを定めています。
 
臨床試験におけるデータ保護は、以下のような対策が行われています。

● データの分類や管理責任者の明確化
● データへのアクセス権限やログ管理
● データの暗号化やバックアップ
● データ提供先や外部委託先との契約や監督
● データ漏洩時の対応策や通報体制

 
 

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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