2024.08.01
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公開日:2023.11.08
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスに関心を持ち、購入や利用に至るまでの一連の体験や感情の流れを旅に例えて表したものです。企業はカスタマージャーニーを用いることで、自社商品やサービスに効果的なマーケティング施策が何かを把握できるようになります。この記事では、カスタマージャーニーの基礎を解説するとともに、その将来的な可能性について考察します。
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カスタマージャーニーは顧客が商品やサービスを購入・利用するまでの過程を視覚化できる、とても有用なマーケティングツールです。カスタマージャーニーは顧客の購買プロセスにおける心理を把握し、各フェーズにおける適切な施策やメディア、KPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator)を明らかにできます。ここでは、カスタマージャーニーが誕生した背景と、現在、どのような進化を遂げているかについて解説します。
カスタマージャーニーが誕生するに至った背景は、インターネットやソーシャルメディアの普及によって、消費者の購買行動が多様化したことです。かつて、消費者はテレビや新聞などのマスメディアから商品やサービスの情報を得て、店舗や電話で購入するというシンプルな購入プロセスをたどっていました。しかし、インターネットの普及後、消費者は様々なデジタルメディアを通じて、大量の情報を収集できるようになりました。その結果、大量の情報を比較検討したり、自分のライフスタイルに適したチャネルから購入するなど、そのプロセスが複雑化したのです。また、購入に至る動機も便利さよりも感動を求めたり、購入者の体験や感想がSNSなどを経由して他の消費者に大きな影響を与えるようになっています。
このような、消費者の購買プロセス多様化に対応するため、企業は消費者がどのタイミングで、どのような情報を求めているかを把握する必要が生じました。そこで求められたのが、カスタマージャーニーという考え方です。カスタマージャーニーの誕生は、1998年に英国の経営コンサルタント会社OxfordSM(当時はOxford Corporate Consultants)が、英国と欧州を結ぶ国際列車の企業ミッションとブランドポジションを確立するために考案したことが起源だと言われています。
その後、OxfordSMが様々な分野でカスタマージャーニーを広く利用したため、一般にも知られるようになりました。 日本においては、2017年にフィリップ・コトラー氏の著書『コトラーのマーケティング4.0』が発刊されたことで、カスタマージャーニーの概念が一般に広く知れ渡るようになったと言われています。
現在のカスタマージャーニーの理念は、顧客の視点をベースとした、購入や利用に至るまでの旅路全体をとらえ、それぞれのフェーズに合わせた顧客ニーズや行動パターンを明確化することを目指しています。しかし、カスタマージャーニーの誕生後も消費者の購入プロセスは大きく変化し続けています。そのため、誕生以降、様々なマーケティングに活用されたカスタマージャーニーにも、課題や問題点が指摘されるようになっています。
インターネットやスマートフォン、SNSなどのデジタルメディアは日々進化し、消費者の購入プロセスは多様化と複雑化が進行しています。このような消費者の変化に対して、カスタマージャーニーを一定パターンで捉えようとする考え方が、実情にそぐわず古いと指摘されている理由です。
現実の購買プロセスにおいて、顧客は様々な要因や刺激に影響されて、予測不可能な行動や感情を示すことがあります。例えば、顧客は商品やサービスに関心があっても、他に興味を引くものや気分の変化によって購入意欲を失う場合もあります。また、顧客は商品やサービスを購入した後も、他の商品やサービスと比較したり、口コミや評判を調べて、自分の選択を再評価します。このように、実際の購入プロセスは非線形に進んでいて、現在のカスタマージャーニーの考え方では捉えきれない部分が多く存在するのです。
顧客の購買プロセスは、時代とともに大きく複雑化しています。また、今後も新しいメディアが登場するとともに、新しい形の購買プロセスが登場してくると思われます。しかし、カスタマージャーニーの本質的な目的は、購買プロセスの正確な把握ではなく、各フェーズにおける効果的なマーケティング施策の明確化です。カスタマージャーニーは、顧客が商品やサービスと接触するポイントを特定し、そこで求める体験や感情を満たすことで最適なコミュニケーションやサービスを提供することを目的としています。
そのため、顧客の旅路が変化したとしても、カスタマージャーニーの本質を見失わずに各フェーズにおける最適な施策を立案し実行する。そのためのツールとしてカスタマージャーニーをビジネスに活用していきましょう。
カスタマージャーニーマップとは、カスタマージャーニーを図表化したものであり、顧客の行動や感情、ニーズを視覚化するツールです。カスタマージャーニーマップは顧客の意思決定や行動を理解し、ターゲティングやコミュニケーション戦略を最適化するために利用されます。カスタマージャーニーマップのメリットは、顧客の購買プロセスを視覚化することで、各フェーズにおける適切な対応策を明らかにできることです。また、組織内でマーケティングの全体図としてマップを利用することで、顧客の視点を共有して、チームメンバーや関係者が一体感を持ちながらタスクや施策に取り組むことができます。
現場で活用できるカスタマージャーニーマップを作成する際には、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、それらの中から、重要な2つのポイントについて解説します。
カスタマージャーニーマップでは、顧客と商品やサービスとの出会いから購入、再購入に至るまでをフェーズとして設定します。一般的には、以下のようなフェーズが考えられます。
カスタマージャーニーマップの有効性を高めるには、各フェーズにおいて、顧客が抱く感情を的確に設定することが重要です。
人が商品やサービスを購入するまでには、様々な感情が芽生えます。例えば、認知フェーズでは好奇心や関心、検討フェーズでは期待や不安など、そこで抱く感情こそが顧客ニーズの源となります。
そして、その顧客ニーズを満たすために提供する情報や体験こそが、カスタマージャーニーで明らかにすべき具体策となります。例えば、認知フェーズで期待感を抱く顧客には商品やサービスの魅力を伝え、検討フェーズで不安を抱く顧客には、機能やコストパフォーマンスを伝える必要があるかもしれません。
このように各フェーズと顧客の抱く感情を的確に結びつけることが、高い効果を期待できる施策の立案へとつながります。また、各フェーズにおける顧客感情を把握するには、調査結果など客観性の高い情報をベースとするかが大切です。カスタマージャーニーは、顧客の視点でビジネスを考える概念です。だからこそ、その作成にあたっては自分たちの想像や仮説だけでなく、実際の顧客の声やデータを反映させる必要があります。インタビューやアンケートなど定性的な調査を行って、各フェーズにおける顧客感情を明らかにしましょう。
カスタマージャーニーマップは、作成しただけでは意味がありません。実際のマーケティングに活用してこそ、本来の価値を発揮します。そこで、ここではカスタマージャーニーマップを上手に活用するためのステップについて解説します。
最初に作成されたカスタマージャーニーマップにおいて、顧客のフェーズごとに設定された感情や行動はあくまで仮説です。そのため、マップの精度を上げるためには、その仮説を検証して改善する必要があります。その検証を行うためにも、各フェーズにおける顧客の心理や行動とKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を連携させることが大切です。
KPIとは、ビジネスの目標や成果を測るための指標です。例えば、オンラインショッピングサイトの場合、KPIとしては、サイトへのアクセス数や滞在時間、コンバージョン率や購入金額などが考えられます。カスタマージャーニーマップの各フェーズにおけるKPIが明確になることで、顧客の心理や行動に関する仮説検証が可能になります。例えば、カスタマージャーニーマップで「顧客は商品の詳細ページを見て購入意欲を高める」という仮説を立てた場合、KPIとしては「商品の詳細ページへのアクセス数」や「商品の詳細ページから購入ページへ遷移する割合」が考えられます。これらのKPIを測定することで、仮説が正しいかどうかを判断できます。
そのため、カスタマージャーニーマップの仮説を立案する際は、KPIとの連携を意識することが大切です。仮説がKPIと連携していないと、各フェーズにおける具体策が有効だったかの検証が困難になります。
カスタマージャーニーマップは、マーケティング施策立案に効果的なツールですが、その効果を高めるには、チーム内での共有が欠かせません。企業のマーケティング活動は、開発や宣伝、営業など様々な部門やスタッフが関係します。その関係者がカスタマージャーニーマップを共有することで、ターゲットとなる顧客の心理や行動、対応策を共有し、効果的なマーケティング活動が可能となります。
チーム内での共有を図るためには、カスタマージャーニーマップの作成段階から各部門を関与させることが効果的です。様々な部門の意見が反映されることで、フェーズごとにおける現実的な顧客像を想定できます。
また、各部門が自分達の意見や知見をカスタマージャーニーマップに反映させることで、そのマップに対する親近感を高める効果も期待できます。さらに、カスタマージャーニーマップを多くの人が見える場所に掲示するのも、有効な方法です。これにより、関係者が常にカスタマージャーニーを念頭に置くことができます。加えて、マーケティング会議やプロジェクトの進捗報告など、定期的な場でカスタマージャーニーマップを参照すれば、全体の共通理解をさらに推し進めることが可能です。
カスタマージャーニーを作成する際に重要なポイントは、いかにリアルな顧客イメージを想定できるかです。カスタマージャーニーに想定した顧客がより現実に近いほど、そこから立案されるマーケティング施策が効果的なものになります。
顧客を想定する方法は様々ありますが、その中でも効果的なのが定性調査の結果を用いる方法です。定性調査は購買プロセスにおける顧客の心理を深掘りできる調査方法であり、カスタマージャーニーとの親和性がとても高いという特徴があります。
そこで、ここでは定性調査のデータを用いたカスタマージャーニーの作成方法について解説します。
カスタマージャーニーマップ作成の目的は、顧客目線のマーケティング施策を立案することです。そのため、カスタマージャーニーマップを作成する際には、作成者がいかに顧客目線を持てるかが、重要なポイントとなります。しかし、日頃、企業で働くスタッフは企業側の視点で顧客を観察しているため、どうしても作成時に販売側の目線が反映されやすくなります。もし、販売側の目線が強いカスタマージャーニーマップを作成すると、顧客の本当のニーズや課題を見逃してしまう可能性があります。
そこで役に立つのが、定性調査から得られる調査結果です。定性調査とは、インタビューやアンケートなどを通じて、顧客の意見や感想、動機や理由などを収集する調査方法です。定性調査の調査結果には顧客心理に関する情報が含まれます。そのため、その情報をカスタマージャーニーマップのベースにすることで、より顧客目線に近い作成が可能となります。
定性調査を用いたカスタマージャーニーマップの作り方は、以下のようなステップになります。
①フェーズの想定
まず初めに、カスタマージャーニーにおける各フェーズを想定します。想定の仕方はマーケティング活動の内容によって異なりますが、一般的には、以下のようなフェーズが考えられます。
それぞれのフェーズを想定することで、調査すべきポイントが明確になります。
②定性調査の実施
定性調査を実施して、各フェーズにおける購買行動と顧客心理を調べます。定性調査は、インタビューやアンケートなどの方法で行います。特に、直接顧客と対話するインタビュー手法は、顧客の心理を深掘りできるため、カスタマージャーニーマップ作成時の重要な情報となります。定性調査では、以下のような質問を行うと、顧客心理の把握につながります。
③定性調査の分析
定性調査の結果を分析し、各フェーズの購買行動と顧客心理に関するレポートを作成します。定性調査では質的な面に重点を置いた分析を行い、得られたキーワードやフレーズから顧客心理を読み取り、レポートとしてまとめます。
④カスタマージャーニーマップの作成
調査結果をベースとして各フェーズの再構成を行い、カスタマージャーニーマップを作成します。カスタマージャーニーマップを作成するには、以下のような要素が重要となります。
このようなステップに進めることで、よりリアルな顧客心理を反映したカスタマージャーニーマップを作成できます。
カスタマージャーニーは、顧客の購買体験を推察するためのツールとして長年にわたり活用されてきました。しかし、テクノロジーの進化や社会の変化により、カスタマージャーニーは新たな進化を遂げようとしています。ここでは、テクノロジーとの融合などによって、大きく変化しようとしているカスタマージャーニーの未来予測について解説します。
近年、ビッグデータやAIなどの新たなテクノロジーがマーケティングに大きな革新をもたらしています。この新たなテクノロジーによる革新は、カスタマージャーニーにも大きな影響を与えています。
特に、AIの進化は、カスタマージャーニーの在り方を大きく変える可能性を秘めています。その大きな理由は、これまで顧客にとって情報収集のメインメディアであった影WebサイトやSNSなどが、AIに置き換わる可能性があるからです。これは情報の主体がマスメディアからデジタルメディアに変化した以上の影響を、カスタマージャーニーに与えるかもしれません。
AIは、顧客の嗜好や行動履歴などのデータをもとに、顧客に最適な情報を提供できます。例えば、顧客が興味を持つ商品やサービスの情報やレビューを自動的に作成し、顧客に提示できます。また、顧客と対話することで、顧客のニーズや課題を引き出し、解決策を提案することも可能です。AIが情報収集の主体となれば、顧客の購買行動や意思決定に大きな影響が出ることが予想されます。
もし、AIが情報収集のメインメディアとなったら、カスタマージャーニーは今よりも単純化する可能性があります。その理由は、顧客のカスタマージャーニーにおけるほとんどのフェーズが、AIによる対応で事足りてしまうからです。
例えば、顧客が商品やサービスに関心を持つ認知フェーズでは、AIが顧客の嗜好や行動履歴などのデータをもとに、顧客に最適なコンテンツを提供します。顧客が商品やサービスを比較検討する検討フェーズでは、AIが顧客と対話することで、顧客のニーズや課題を引き出し、解決策を提案できます。このように、AIの存在だけで、カスタマージャーニーの大部分をサポートできるようになるかもしれないのです。
また、AIは、顧客の情報を収集、分析するツールとしても機能します。顧客がAIに入力した質問や対話の情報から、顧客の悩みやニーズ、心理状況などを把握、分析することも可能になります。
今後、自社のカスタマージャーニーにおいて、AIをいかにうまく取り入れるかが、マーケティングの中心課題になるかもしれません。
AIがマーケティングのメインメディアになる時代には、AIは企業の顔としての存在になります。顧客の情報収集や質問など企業とのやり取りは、ほとんどAIだけで完結するかもしれません。
そうすると、企業は顧客から高い支持を得られる顔を持つために、AIを自社に最適化するよう育てる必要性が発生します。AIに自社の商品やサービス、ブランドや価値観などを理解させ、それを顧客に最適化して伝えられる仕組み作りが重要となるでしょう。
そのため、マーケティング活動は、企業がAIをマーケティングの中心に据え、自社マーケティングに適したものへと育てていくことが中心課題になるかもしれません。その結果、マーケティングはメディアを使う時代から、AIというメディアを育てる時代へと変わっていくでしょう。マーケティングは新たな可能性の時代を迎えています。もしかしたら、私たちはその大きな変革を目の当たりにする世代なのかもしれません。
ここまで、カスタマージャーニーについて解説してきました。モノや情報があふれている現代では、顧客が必要にせまられて購入する商品は減っています。そのため、多くの購買行動における決定的な要因は、顧客の満足感です。だからこそ、カスタマージャーニーを用いて、顧客の心理や行動を分析することがとても重要になっています。
カスタマージャーニーは時代の変化とともに、その在り方も変化しています。特に、AIなどテクノロジーの発展は、カスタマージャーニーに大きな影響を与えています。
しかし、顧客の満足感を満たすという重要ポイントは変わっていません。これからもマーケティングで高い成果を生み出すために、カスタマージャーニーの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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