
2024.09.12
定性調査の設計方法を事例で解説~売上低迷の要因調査~
企業が新商品を開発し、満を持して市場に投入しても、必ずしも売上目標を達成できるわけではありません。売上目標を下回り、低迷してしまうケースも少なくありません。この……
公開日:2025.04.07
商品開発やマーケティング戦略を立案する際、消費者の生の声を聞くことは重要です。しかし、アンケート調査だけでは捉えきれない消費者の深層心理や本音を把握するためには、より直接的なコミュニケーションが必要となります。
フォーカスグループインタビュー(FGI)は、少人数のグループを対象に行うインタビュー手法であり、消費者の深層心理を探るための効果的な定性調査※の一つです。
※ 定性調査とは、消費者の「なぜ」を深く掘り下げ、その意識や行動の背景を理解するための重要な手法です。インタビューや観察など、定性調査にはさまざまな技法があり、調査の目的に応じて使い分けることが求められます。
この記事では、フォーカスグループインタビューの基本概念から実施方法、メリット・デメリット、そして成功させるためのポイントまで詳しく解説します。
フォーカスグループインタビュー(FGI:Focus Group Interview)は、特定の目的に合わせて選定された少人数のグループを対象に、モデレーターと呼ばれる司会者が進行役を務め、座談会形式でインタビューを行う定性調査のイチ手法です。主に6名程度の参加者で構成され、商品・サービスの評価や消費者のニーズ把握、新商品コンセプトの検証など、企業が消費者の深層心理を理解するために実施されます。
その特徴は、グループダイナミクス※1による、幅広い意見やアイデアを収集できる点にあります。モデレーターが場を取り仕切り、参加者が自由に発言できる環境を整えることで、単独インタビューでは得られない発想や情報を引き出すことが可能です。
また、目的は消費者の価値観やニーズ、ウォンツ※2など、数値化しづらい内面情報を取得することです。人間が行う意思決定の9割以上は、本人が自覚できない「潜在意識」によって行われると考えられています。そのため、消費者は商品やサービスに「好き」「嫌い」「満足」「不満」などの感情を抱いていても、それがどのような理由や考え方から生じているのか理解できていない場合が少なくありません。グループインタビューでは、モデレーターが参加者の考えを客観的に整理したり、深掘りしたり、参加者同士が意見交換したりすることで、参加者の持つ潜在的な意見やニーズを引き出します。
※1 グループダイナミクスとは、集団における個人の相互作用や影響力関係のことを指します。
※2 「ニーズ」は目的、「ウォンツ」は手段です。例えば、「水が飲みたい」と思ったとします。その時の「ニーズ=目的」は、「のどの渇きを潤すこと」であり、ウォンツは「水を飲むこと」です。
フォーカスグループインタビューとデプスインタビュー(個別深層面接)は、ともに定性調査の手法ですが、そのアプローチと特徴には大きな違いがあります。
デプスインタビューは1対1で行われる調査手法で、一人の対象者に対して深く掘り下げた質問を行い、個人の意思決定過程や潜在意識を詳細に理解することを目的としています。
両者の主な違いは以下の通りです。
項目 | フォーカスグループインタビュー | デプスインタビュー |
---|---|---|
参加者数 | 複数人(主に6〜8名) | 1名 |
調査時間 | 1グループあたり1時間半〜2時間 | 1人あたり1時間〜1時間半 |
主な目的 | 多様な意見の収集、グループダイナミクスの活用 | 個人の意思決定過程や深層心理の理解 |
適したテーマ | 商品評価、アイデア創出、意見交換 | 機密性の高い内容、個人的な経験、個人の深層心理の深掘り |
メリット | 短時間で多くの意見収集、参加者間の相互作用 | 個別の深い洞察、プライバシーの確保 |
例えば、6名にインタビューを実施する場合、フォーカスグループインタビューでは1グループ×1時間30分=1時間30分で完了するのに対し、デプスインタビューでは6人×1時間=6時間を要します。
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フォーカスグループインタビューとグループインタビューの違い
フォーカスグループインタビューとグループインタビューの違いとして、当社では同一の調査手法として認識しております。そのため、本記事でも特に区別せず解説をしていきます。
フォーカスグループインタビューは、企業が消費者の真のニーズを把握し、効果的な戦略を立てるにあたり多くのメリットがあります。
商品・サービスの改善点を発見できる
フォーカスグループインタビューでは、消費者の生の声を直接聞くことができるため、現行の商品やサービスの改善点を具体的に把握することができます。開発担当者やマーケティング担当者など、企業内部の視点だけでは気づけなかった新たな視点を得ることで、より消費者ニーズに合致した商品開発が可能になります。例えば、あるスマートフォンアプリのフォーカスグループインタビューでは、開発者が想定していなかった使用シーンや操作性の課題が明らかになり、UI/UXの大幅な改善につながったケースがあります。
単独インタビューでは得られない情報を収集できる
複数の参加者による対話形式で進めるフォーカスグループインタビューでは、参加者同士の会話から新たな発想やアイデアが生まれることがあります。ある参加者の意見が他の参加者の記憶や経験を刺激し、より深い議論や洞察を引き出すことができます。グループ内の相互作用やグループダイナミクス(集団力動)を活かすことで、単独インタビューでは得られない情報や気づきを収集できるのが大きな特徴です。
短時間で効率的にデータを収集できる
フォーカスグループインタビューでは、1回のセッションで複数の参加者(6〜8名)から同時に情報を収集できるため、短時間で多くのデータを得ることができます。デプスインタビューと比較すると、同じ人数からの情報収集にかかる時間を大幅に短縮できるのが大きなメリットです。時間的制約のある調査や、迅速な意思決定が求められるプロジェクトにおいて、この効率性は非常に重要です。
属性の異なるグループ間の比較ができる
複数の異なる属性グループにインタビューを実施することで、属性による実態・意識・評価の違いを比較することができます。例えば、同じ商品に対する男女の評価の違い、20代と40代の世代間の違い、あるいは単身者と子育て世帯の利用実態の違いなどを明らかにすることができます。異なる属性のグループを比較することで、ターゲットセグメントごとのニーズや課題をより明確に把握し、セグメント別のマーケティング戦略を立案することが可能になります。
フォーカスグループインタビューには数多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。調査を実施する前に、これらの課題を理解し、適切に対処することが重要です。
個人の深い心理を知ることが難しい
フォーカスグループインタビューでは、複数の参加者が集まるグループ形式で実施するため、個人の深層心理を詳細に掘り下げることは難しい場合があります。初対面の人々の前では、参加者が緊張したり、本音を話しにくかったりすることがあります。特に、病気や容姿、苦しい体験、経済状況といった個人的な情報や、ネガティブな話題については語りづらく、表面的な意見に留まってしまう可能性があります。そのため、インタビューのテーマ選定においては、グループ形式で話しやすい内容を選ぶことが重要です。
グループにより議論の盛り上がりに差が出る
FGIでは、グループの構成メンバーによって議論の「活発さ」や「内容の深さ」に大きな差が生じることがあります。特に話し上手な参加者や意見を強く主張する参加者がいるグループでは、他の参加者が発言しづらい雰囲気になったり、特定の意見に引きずられたりする可能性があります。また、参加者同士の相性や属性の違いにより、話が盛り上がらないケースや、否定的・攻撃的な発言により場の雰囲気が悪化するケースもあります。モデレーター(インタビュアー)には、全ての参加者が平等に発言できる場を作り、建設的な議論を促す技術が求められます。
バイアスの発生リスク
フォーカスグループインタビューでは、様々なバイアスが生じる可能性があります。例えば、サンプルバイアスとして、特定の属性(学生や高学歴者など)に偏った参加者が集まることがあります。また、平日昼間に実施する場合、その時間帯に参加できる人(学生・主婦など)に偏りが生じ、平日働いている人の意見を反映できないといった課題もあります。さらに、モデレーター(インタビュアー)が意識的・無意識的に特定の結論へ誘導してしまうインタビュアーバイアスや、表情や相槌といった非言語的な情報がグループに影響を与えるリスクも考慮する必要があります。
日程調整の難しさ
複数の参加者が同時に集まる必要があるため、インタビューの日程調整が複雑になる場合があります。特に特定の属性や条件を満たす参加者を集める場合、全員の都合が合う日時を見つけることは容易ではありません。また、当日のキャンセル対応や、予備の参加者の確保など、運営面での負担も大きくなります。デプスインタビューと比較すると、日程調整に関わる労力は増大します。
これらのデメリットを認識した上で、調査目的や内容に応じてフォーカスグループインタビューが最適な調査手法かどうかを判断することが重要です。
フォーカスグループインタビューは、計画から実施、結果の検証まで、いくつかの段階を経て進められます。それぞれの段階で求められる作業や重要なポイントを解説します。
参加者の構成例は以下の通りです。
役割 | 人数 | 主な業務 |
---|---|---|
モデレーター(インタビュアー) | 1名 | 議論の進行、参加者からの意見引き出し |
サブインタビュアー | 0〜1名 | 司会者の補助、タイムキープ |
記録担当者 | 1〜2名 | 議事録作成、映像・音声記録 |
対象者(参加者) | 6〜8名 | 意見や感想の共有 |
モデレーター(インタビュアー)は、インタビューの場を取り仕切り、参加者から自由な発言を引き出す重要な役割を担います。また、サブインタビュアーや記録担当者は、言語的情報だけでなく、参加者の表情や全体の雰囲気といった非言語的情報も観察・記録します。
フォーカスグループインタビューのプロジェクト全体の流れと期間は、規模や複雑さにもよりますが、一般的には以下のようなスケジュール感となります。
調査の緊急性や規模、対象者の希少性などによって、このスケジュールは変動する可能性があります。特に、特定の条件を満たす対象者を多数集める必要がある場合は、リクルーティングに時間がかかることを考慮する必要があります。
フォーカスグループインタビューでは、異なる属性や条件を持つ参加者をグループに分けて、複数の「セッション」を実施することがあります。例えば、男性5名のグループと女性5名のグループにそれぞれインタビューを行う場合、2セッションのフォーカスグループインタビューを実施することになります。
セッション数は調査の目的や予算、対象者の属性などによって決定します。属性や条件による違いを比較したい場合は、複数のセッションを設けることで、より多角的な視点からの分析が可能になります。
フォーカスグループインタビューを実施する際の費用は、調査の規模や条件、実施方法によって大きく変動します。ここでは、当社で実施する場合の費用感について解説します。
対象者の条件や人数、インタビュー時間、付加的なオプションサービスなどによって変動するので注意が必要です。
続いて、費用の内訳についてです。フォーカスグループインタビューの費用は主に以下の項目から構成されています。
項目 | 内容 |
---|---|
対象者抽出のためのスクリーニング調査費用 | 調査パネル(モニター会員組織)から条件に合致する対象者を選定するためのアンケート調査費用です。基本属性(性別・年齢など)以外の条件(特定商品の利用状況など)を確認するための調査が必要となります。 |
リクルーティング費用 | スクリーニングで条件に合致した人に対して、電話やメールで最終確認を行い、インタビュー参加の意思を確認する作業にかかる費用です。人数が多いほど、また条件が複雑なほど費用は増加します。 |
インタビュー実施費用 |
モデレーター費用 :専門的なファシリテーション技術を持つモデレーターの人件費 書記・スタッフ費用 : 記録や運営をサポートするスタッフの人件費 謝礼 :参加者に支払う謝礼金(一般的に1人8,000円前後) 会場費 :インタビュールームなどの施設利用料 機材費 :録音・録画機材などの費用 飲食費 :参加者に提供する軽食や飲み物の費用 |
分析・報告書作成費用 | インタビュー結果の文字起こし、分析、レポート作成にかかる費用です。詳細な分析や高品質な報告書を求める場合は、追加費用が発生することがあります。 |
フォーカスグループインタビューの費用を抑えるためのポイントとしては、以下のような方法が考えられます。
ただし、コスト削減が調査品質の低下につながらないよう、バランスを考慮することが重要です。特に、モデレーターの質やスクリーニングの精度は、調査結果に直接影響する要素であるため、過度な削減は避けるべきでしょう。
フォーカスグループインタビューを効果的に実施するためには、いくつかのポイントがあります。事前の準備から実施、分析に至るまで、以下のポイントに留意することで、より質の高い調査結果を得ることができます。
適切な枠組みの設定
フォーカスグループインタビューを実施する際の基本的な枠組みとして、参加人数や時間配分、グループの組み方などを適切に設定することが重要です。参加人数は6〜8名が理想的とされています。人数が多すぎると一人あたりの発言時間が減少し、少なすぎると意見の多様性が失われる可能性があります。また、インタビュー時間は1時間30分から2時間程度が適切で、それ以上長くなると参加者の疲労や集中力低下が懸念されます。グループの組み方においては、調査目的に合った対象者を選定し、同質性のあるグループを作成することが重要です。異なる属性の人が混在すると、議論が活性化しなかったり、一部の参加者が発言しづらくなったりする可能性があります。
話しやすいテーマ選び
フォーカスグループインタビューではグループ形式でのディスカッションを行うため、参加者が話しやすいテーマを選ぶことが重要です。パーソナルな話題やネガティブな内容は避け、全員が共通の認識を持てる話題が適しています。例えば、既に市販されている商品や全員が利用したことのあるサービスについての感想や意見は、比較的話しやすいテーマと言えます。一方、健康上の悩みや経済状況など、個人的かつ機密性の高い内容は、グループでの議論には適していません。
ファシリテーション技術
フォーカスグループインタビューではモデレーターのファシリテーション技術が非常に重要です。参加者が心理的に安全な環境で意見を述べられるよう、温かな雰囲気づくりを心がけることが必要です。特に初対面の人々が集まる場では、緊張や不安を感じている参加者も多いため、アイスブレイクを取り入れたり、発言の少ない人に配慮したりするなど、全員が参加できる環境を整えることが求められます。
バイアスへの対応
フォーカスグループインタビューは、様々なバイアスが生じる可能性があるため、それらを認識し対応することが重要です。特に、参加者のサンプルバイアスやモデレーターによるバイアスに注意が必要です。例えば、特定の属性(学生や主婦など)に偏った参加者構成にならないよう、事前のスクリーニングを徹底することや、モデレーターが無意識に特定の意見を誘導しないよう、中立的な立場を保つことが重要です。
これらの注意点を踏まえたうえで、調査の目的や対象に応じた適切な準備と実施を行うことが、FGIの成功につながります。
フォーカスグループインタビューは様々な業界や目的で活用されています。以下では、実際の調査事例を紹介し、フォーカスグループインタビューがどのようにビジネス上の課題解決に役立てられているかを解説します。
事例1: 食品メーカーの新商品開発
ある大手食品メーカーでは、若年層向けの新しいスナック菓子の開発にあたり、ターゲット市場の嗜好や期待を把握するためにフォーカスグループインタビューを実施しました。20代前半の男女を対象に、現在のスナック菓子の消費実態や不満点、理想の味や食感、パッケージデザインなどについて意見を収集しました。その結果、「手が汚れずに食べられる」「シェアしやすい」「SNS映えする」といった若年層特有のニーズが明らかになり、従来の開発チームでは想定していなかった視点を得ることができました。これらの知見をもとに開発された新商品は、発売後に高い評価を得ることに成功しました。
事例2: 美容サービスの改善
中規模の美容サロンチェーンでは、顧客満足度向上と再来店率アップを目指し、現在のサービスの評価と改善点を把握するためにフォーカスグループインタビューを実施しました。20代〜40代の女性顧客を「リピーター」と「1回のみの利用者」に分けてグループを構成し、サービスの満足点と不満点について詳しく聞き取りました。この調査により、リピーターは技術力と接客を高く評価する一方、1回のみの利用者は予約システムの使いづらさや待ち時間の長さに不満を持っていることが判明しました。また、両グループから「施術内容の説明が分かりにくい」という共通の課題も浮かび上がりました。これらの知見をもとに、予約システムの改善や施術内容の説明方法の見直しを行った結果、新規顧客の再来店率が15%向上するという成果が得られました。
事例3: 金融商品のコンセプト検証
大手金融機関では、若年投資家向けの新しい投資信託商品を開発するにあたり、コンセプトの受容性を検証するためにフォーカスグループインタビュー実施しました。20代〜30代の投資初心者と投資経験者を別々のグループに分け、新商品のコンセプトや訴求ポイント、懸念点などについて意見を収集しました。調査の結果、初心者グループからは「専門用語が多くて理解しづらい」「最低投資額のハードルが高い」といった意見が出される一方、経験者グループからは「他社商品との差別化ポイントが不明確」「リターンの見通しが具体的でない」といった指摘がありました。これらのフィードバックを受けて、商品説明をわかりやすくする、少額からの投資が可能な仕組みの導入、競合商品との明確な差別化ポイントの設定など、コンセプトの大幅な見直しを行い、より市場ニーズに合致した商品開発を進めることができました。
これらの事例からわかるように、フォーカスグループインタビューは消費者の深層心理や本音を把握し、製品開発やサービス改善に活かす上で効果的なツールとなっています。特に、定量調査では捉えきれない「なぜ」という理由や背景を理解することで、より顧客中心のビジネス戦略を構築することができます。
フォーカスグループインタビューから有益な洞察を得るためには、適切な準備と実施が不可欠です。 ここでは、フォーカスグループインタビューを成功に導く3つの重要な要素「グルーピングの仕方」「モデレーターの技量」「分析の質」について解説します。これらの要素をバランスよく整えることで、より質の高い情報収集と深い洞察の獲得が可能になります。
フォーカスグループインタビューの成否を左右する重要な要素の一つが、参加者のグルーピング(グループ分け)です。効果的にグルーピングすることにより、参加者がリラックスして本音で語れる環境が生まれ、活発な会話が促進されます。
効果的なグルーピング方法
効果的なグルーピングとして、以下表のような年齢や性別、ライフステージなどでグルーピングする方法があります。
グルーピング方法 | 内容 |
---|---|
年齢・性別 | 最も基本的な分類方法です。「20代女性」「40代男性」「シニア女性」など、年齢や性別に基づいてグループを形成します。特に生活習慣や価値観が世代や性別で大きく異なる商品・サービスの調査に効果的です。 |
ライフステージ | 人生の段階に基づく分類方法です。「独身者」「子育て世帯」「シニア夫婦」など、家族構成や生活環境でグループを分けます。日用品や住宅、金融商品などの調査では、ライフステージによる違いが重要な洞察をもたらします。 |
商品・サービスの利用状況 | 利用頻度や経験に基づく分類です。「ヘビーユーザー」「ライトユーザー」「未使用者」などのグループを設定し、各グループを比較することで、利用を促進または阻害する要因を特定できます。 |
自社・他社商品の利用状況 | 「自社商品ユーザー」「競合他社商品ユーザー」「両方使用している人」などのグループを設け、比較することで自社の強みや弱みを明確にします。 |
価値観やライフスタイル | 「環境意識の高い消費者」「トレンド感度の高い消費者」「実用性重視の消費者」など、価値観や生活スタイルでグループを分けることで、商品開発やブランディングの方向性を検討できます。 |
効果的なグルーピングのポイント
効果的なグルーピングをするためには、下表のポイントをおさえる必要があります。
ポイント | 内容 |
---|---|
グループ内の同質性確保 | 同じグループ内の参加者は、調査の主要な属性において類似していると、互いに共感しやすく話しやすい環境が生まれます。 |
グループ間の差異の明確化 | 複数のグループを設定する場合は、グループ間で明確な違いがあるようにします。これにより、属性による意見の違いを把握しやすくなります。 |
調査目的との整合性 | グルーピングの軸は調査目的に沿ったものを選ぶことが重要です。目的と関係のない属性でグループを分けても、有益な情報は得られません。 |
リクルーティングの現実性 あまりにも希少な属性の人だけを集めようとすると、調査自体が実施困難になる可能性があります。
フォーカスグループインタビューの質は、モデレーターの技量に大きく左右されます。優れたモデレーターは、参加者から深層心理や本音を引き出し、有意義な議論を促進する重要な役割を担います。
モデレーターの主な役割
それでは、モデレーターの『役割』にはどんなものがあるのでしょうか。主なものをまとめると以下表になります。
役割 | 内容 |
---|---|
進行管理 | 議論の時間配分を適切に管理し、話題が目的から逸れないようにコントロールします。限られた時間内で必要な情報を収集するためには、テーマごとの適切なペース配分が重要です。 |
参加者の意見分析 | 発言内容だけでなく、言葉の選び方や表情、声のトーンなどから、参加者の真の意図や感情を読み取ります。表面的な意見の背後にある本質を見抜く洞察力が求められます。 |
深層心理の引き出し | 「なぜそう思うのですか?」「もう少し具体的に教えていただけますか?」といった質問を適切に投げかけ、参加者が言葉にしづらい本音や葛藤(かっとう)を引き出します。 |
意見のまとめと整理 | 多様な意見を論点ごとに整理し、議論の方向性を明確にします。また、議論の結果を要約して参加者全員で共有し、認識の一致を図ります。 |
モデレーターに求められるスキル
モデレーターは役割をこなすだけでは、優れたモデレーターとは言えません。優れたモデレーターは、下表のようなスキルが求められます。
スキル | 内容 |
---|---|
抽象化と具体化のスキル | 参加者の個別の発言から共通点や差異点を見出し抽象化する能力と、抽象的な概念を分かりやすい具体例に落とし込む能力の両方が求められます。 |
心理的安全性の確保 | 参加者が安心して本音を語れる環境を作る能力が重要です。批判や否定を避け、どんな意見も尊重される雰囲気づくりがモデレーターの重要な役割です。 |
高度なコミュニケーションスキル | 傾聴力、質問力、言い換え力など、高度なコミュニケーション能力が不可欠です。そのため、心理学の知見を活かしつつ、参加者の心理状況に応じた柔軟な対応が必要です。特に、参加者の発言を正確に理解し、適切にフィードバックする能力が求められます。 |
効果的な進行テクニック
続いて、モデレーターには、インタビューを進行させるにあたって、下表のようなテクニックも求められます。
テクニック | 内容 |
---|---|
アイスブレイク | インタビュー冒頭に簡単な自己紹介や軽い話題で場の雰囲気を和らげ、参加者の緊張をほぐします。 |
オープンエンド質問 | 「はい/いいえ」では答えられない開かれた質問を用いて、参加者から詳細な意見を引き出します。 |
プロービング(深掘り) | 参加者の発言に対して「なぜ」「どのように」と掘り下げることで、表面的な意見の背後にある本質に迫ります。 |
バランス管理 | 発言が多い参加者と少ない参加者のバランスを取り、全員が平等に意見を述べられるよう配慮します。 |
フォーカスグループインタビューから得られたデータは、適切に分析されてこそ価値を持ちます。一方で、価値を持たせるための分析は、高度な知識と経験が必要となります。
情報整理の手法
まず、分析の一部として情報整理の手法を以下3つ紹介します。
手法 | 内容 |
---|---|
発言録の作成 | 録音や録画をもとに、発言内容を正確に文字起こしします。非言語情報(表情や声のトーン、沈黙など)も可能な限り記録すると、より豊かな分析が可能になります。 |
コーディング | 発言内容を「製品の使いやすさ」「価格評価」「競合比較」などのテーマやカテゴリーに分類し、ラベル付けを行います。これにより、大量の情報を構造化して扱えるようになります。 |
キーワード抽出 | 頻繁に使われる言葉やフレーズを抽出し、参加者が重視しているポイントを把握します。「便利」「使いづらい」「高すぎる」といった評価表現に特に注目します。 |
集団力動の考慮
フォーカスグループインタビューでは、参加者間の相互作用や集団の力学(集団力動)が発言内容に影響を与えることがあります。特定の参加者の発言が他の参加者に与えた影響や、グループ内での同調圧力の有無を分析することが重要です。意見の対立や共感が生じた場面を注意深く観察し、話したくても話せなかった可能性のある内容にも目を向けることで、より深い洞察が得られます。
インサイトを抽出するための視点
分析の質に関わることとして「調査結果(データ)から適切な分析を行い、その分析から得られたインサイトが調査目的を達成するか否か」が挙げられます。このインサイトというのは、情報やデータの中から導き出される深い洞察や理解のことです。単なる事実や数値データ以上の意味や価値を持ち、問題解決や意思決定において重要な役割を果たします。
インサイトを抽出するには、下表のような分析視点が必要です。
視点 | 内容 |
---|---|
パターンの発見 | 複数の参加者や異なるグループ間で共通して見られる意見や反応のパターンを特定します。 |
矛盾点の分析 | 「便利だけど高い」「良いと思うけど使わない」といった参加者の発言に見られる矛盾や葛藤(かっとう)を分析します。 |
潜在ニーズの特定 | 参加者が直接言語化していなくても、発言の背景にある潜在的なニーズや欲求を読み取ります。 |
フォーカスグループインタビューの分析は、単なるデータの要約ではなく、深い洞察を導き出す創造的なプロセスです。高度な分析スキルと経験を持つ専門家の関与が、質の高い分析結果を得るための鍵となります。
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ここまで、その基本概念からメリット・デメリット、実施の流れと費用感、そして成功のポイントまで詳しく解説しました。
フォーカスグループインタビューを有効活用するためには、明確な目的設定、適切なグルーピング、高度なモデレーションスキル、そして質の高い分析が不可欠です。これらを総合的に実践することで、消費者インサイトを獲得し、ビジネス成功につなげることができるでしょう。
マーケティングリサーチにおいて、定量調査と定性調査をバランスよく組み合わせることが、真の消費者理解への近道となります。フォーカスグループインタビューは定性調査を担う重要な手法として、今後も多くの企業に活用されていくことでしょう。
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調査設計・聞き方の失敗例から学ぶ「インタビュー調査のコツ」
定性調査として実施されているインタビュー調査。生活者・消費者のインサイトから、何らかの意思決定やアクションへ繋げることを目的として行います。しかしながら、実際にインタビューを企画・実施・活用する場面では、様々な悩みを持つ企業が少なくありません。一度は「失敗」をしてしまった方も、いらっしゃるのではないでしょうか。そこで本資料では、調査目的に沿った有意義なインタビューを行い次のアクションに繋げるためのポイントを、様々な「失敗談」をベースに考察・提起しております。
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デプスインタビューの定義~分析:効果的な方法で本音とインサイトを引き出す
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グループインタビューのコツとは?成功させる戦略について解説
近年、市場調査において、消費者の深層心理を理解するために定性調査の重要性が高まっています。中でも、グループインタビューは、消費者の本音を引き出し、多様な意見や深い洞察を引き出すための手法として注目されています。
しかし、グループインタビューから有益な調査結果を得るには、グループインタビューの特性や重要なポイントを理解して、事前準備や調査実施、分析作業を行うことが大切です。
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