公開日:2025.01.20

NPS®の計算ロジックを日本人向けに変更するのは効果的か?実データから考察を紹介

  • マーケティングリサーチHowto

企業が競争力を維持し、顧客の指示を得ていくためには、商品やサービスの魅力を高めるだけでなく、顧客のニーズや満足度を把握することが欠かせません。これを実現するためには、単なる感覚や経験に頼るのではなく、データに基づいた顧客理解が求められます。そこで、満足度、いわゆる顧客ロイヤリティーを測る指標として利用されるのがNPS®(Net Promoter Score)です。NPS®は、顧客が他人に商品やサービスを薦めたい度合いを数値化し、信頼や愛着を可視化できます。しかし、日本において一般的なNPS®の活用において、いくつか疑念の声が出ております。例えば「NPS®スコアは、だいたいマイナスになるから善し悪しの判断に疑問がある」という声です。こういったお声から考えられるのは、一般的なNPS®をそのまま適用すると、「結果の解釈や活用の難しさを感じる企業が一定数あるのではないか」と考えます。
 
そこで本記事では、NPS®とNRSについて紹介し、そのそれぞれの指標について結果を比較し、仮説を検証することで、日本におけるNPS®の可能性について紹介します。
 

 
 

調査概要について

まず、NPS®とNRSによる結果の比較をするために、実際に行った概要が下表となります。

表 調査概要
項目 内容
調査目的 「聞き方の違い」でどの程度調査結果が変わるのか?
実データによる具体例を提示し、調査設計上考えるべき点について考察を行う。
調査概要 NPS®とNRSによる結果の比較
 ・ 商材によって、それぞれの手法のプラスマイナスの出やすさの違いを検証
 ・ NPS®の計算式は、日本においても海外と同様のロジックでよいのか?についての考察
「最大」という言葉がつく、つかないで、回答傾向が違うのか
聞き方の違いによる結果への影響
 ・ 商品購入時の「重視点」と「期待点」
 ・「決め手になるもの」と「最も参考にするもの」
調査手法 Webアンケート
対象者条件 性別 男性、女性
年齢 20~50代
地域 全国
その他条件 有職者(パート・アルバイト含む)
パソコンまたはスマートフォンでアンケートを回答している
回収数 本調査 800サンプル
割付 図 割付
調査期間 2022年5月16日(月)~ 2022年5月19日(木)
調査機関 株式会社アスマーク(旧マーシュ)

 
補足として、割付は性年代20~30代男性、40~50代男性と分けており、さらにA群・B群があります。このA群・B群の割付は、別記事で解説する検証にて用いる予定であり、本記事では触れませんのでご了承ください。
 
 

NPS®とは

「NPS®とNRSは、そもそも何か」というところから説明していきます。
 
NPS®は、Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)の略となり、顧客ロイヤリティー(ブランドや商品、またはサービスに対する「信頼・愛着」のこと)を計測するための指標として利用されています。他人への推奨度(どれぐらいお薦めしたいのか)を算出することで、顧客ロイヤリティーを可視化することができます。

NPS®の計算方法

NPS®指標を測る際には、0(推奨しない)~10(推奨する)点の11段階の選択肢から1つを選ぶアンケート調査を用います。0~6点を付けた人は「批判者」、7~8点を付けた人は「中立者」、9~10点を付けた人は「推奨者」とし、全体に占める推奨者の割合から批判者の割合を引き算した数値がNPS®です。このNPS®は、-100~100の間で表されるスコアとなり、整数の100に近いほどロイヤリティーがあるとされています。
 

図 NPS®のイメージ

 

NPS®に対する疑問の声

当社がNPS®とNRSを比較しようとした経緯が「NPS®に対する疑問の声」にあります。
 
まず、疑問の声の1つ目として、「NPS®スコアは、だいたいマイナスになるから善し悪しの判断に疑問がある」というのがあります。そして、グローバルで考えた時に、日本人は両極を選びづらく、9点や10点が付きづらいのでスコアが高まらない傾向もあるため、やはり「どうなのか」という疑問が出てきます。そして、2つ目として、「自分は大ファンでも人には勧められないケースもあるので、ロイヤリティーの指標としてどうなのか」というのがあります。そもそもNPS®スコアは推奨度です。「推奨する」ということは、「ロイヤリティーがある」と考え、調査する題材によって、大ファンであっても人に薦められないケースがあります。
 
これらのことから、「ロイヤリティーを測る指標として、NPS®一辺倒で考えるのは正しいのか」というのがあり、見つけたのがNRSという手法になります。
 

 
 

NRSとは

NPS®(Net Repeater Score)が推奨意向であったのに対し、こちらは「継続利用の意向」をロイヤリティーの指標としています。心理的なロイヤリティーを測っているという点は同様となります。

NRSの計算方法

NRS指標を測る際には、下図のように「絶対継続したくない」から「積極的に継続したい」の5段階の選択肢から1つを選ぶアンケート調査を用います。「絶対継続したくない」から「その時になってみないとわからない」を選択した人は「<低>:離反リスク者」、「今と同じ程度継続したい」を選択した人は「<中>:中立者」、「積極的に継続したい」を選択した人は「<高>:リピーター」とし、全体に占めるリピーターの割合から離反リスク者の割合を引き算した数値がNRSです。
 

図 NRSのイメージ

 
 

検証① NPS®とNRSの結果の比較

検証①では、同じ設問に対してNPS®とNRSで聴取した際の結果の違いを検証します。この検証を実施するにあたり、回答対象者を利用経験者に絞り込むため、下図のようなアンケートで「金融機関」「スマホの通信会社」「日用品メーカー」の3分野で利用したことのある企業を選択してもらいました。
 

回答対象者を利用経験者に絞り込むためのアンケート画面
図 回答対象者を利用経験者に絞り込むためのアンケート画面

 
続いて、下図は実際のNPS®の質問画面となります。0「まったく薦めたくない」~10「とてもお薦めしたい」までの11点の尺度があり、「あなたが利用したことのあるとお答えの企業についてお伺いします。以下の企業の製品やサービスをどの程度お薦めしたいと思いますか。「まったく薦めたくない」を0、「とてもお薦めしたい」を10としたときの、あなたのお薦め度合いをお知らせください。」と尋ねて、先ほど利用があった企業を表側で提示するという形で聴取しております。
 

NPS®の質問例
図 NPS®の質問例

 
そして、下図は実際のNRSの質問画面となります。5段階での継続利用意向となるので表頭が変わり、設問文も合わせて変えております。
 

NRSの質問画面
図 NRSの質問画面

 
NPS®との比較という趣旨となりますので、「現在利用していない人」も回答者に含んでいます。この尋ね方について「適切ではないのではないか」というご意見もあるかと思いますが、ご了承いただければと思います。

検証①-1 NPS®とNRSの比較(商材による違い)

下図はNPS®の結果です。
 

NPS®の結果
図 NPS®の結果

 
左側の表には、0から10点の表頭となっており、それぞれ横で100%になります。この横パー(横パーセント)の集計表のようなものに、スコアの高い低いで赤と青のグラデーションで色をつけております。そして、右側の表は、批判者や中立者、推奨者、NPS®スコアを表頭とした表となっております。例えば、批判者の数値は、左側の表の0から6までのパーセンテージを足した数値になっています。
 
この左側の表からは、「5を選択する人が多い」、「5~8ぐらいまでの間に人の回答がばらついている」といった傾向が見えます。また、右側の表からは、「批判者が多い」、「推奨者が少ない」、「NPS®スコアはいずれもマイナス」というのも見えます。そして、分野別で見てみると、日用品と比べると、金融機関やスマホの通信会社の場合、「批判者」が多い傾向が見られます。そして、多くの場合こういった結果になると考えています。
 
続いて、下図はNRSの結果となります。
 

NRSの結果
図 NRSの結果

 
右側の表および分野別で見てみると、スマホの通信会社は他の分野と比べ「離反リスク者」の割合が高い傾向にありました。「キャリアの乗り換え」というのはあると思いますので、納得感がある結果ではないでしょうか。また、分野によって違い出てきたことから、扱う題材によって影響が受けることがわかります。
 
それでは、本題の「NPS®とNRSのスコアを比べるとどうか」といったところに切り込んでいくため、下図がそれぞれのスコアを並べた表になります。
 

NPS®とNRSのスコア
図 NPS®とNRSのスコア

 
NPS®の結果を左側に、NRSの結果を右側に置いています。これらのスコアを見てみると、いずれもマイナスとなり、NPS®スコアが低ければ、NRSも低い、といった関係が見られ、相関係数も0.77と強い相関がありました。同様に批判者と離反リスク者の相関係数も0.79と強い相関がみられます。一方で、推奨者やリピーターの相関係数は0.37と弱めの相関となりました。
 
これらのことから、NPS®とNRSスコアが計算される中で、批判者や離反リスク者の影響が大きいということが読み取れると思います。
 
そして、両スコアとも結果がマイナスとなっており、結果の理解、扱いづらさ、という点で懸念があると、改めて感じます。もちろんNPS®もNRSも絶対値として見る必要はなく、他社との比較、前回調査との比較という使い方をすれば、問題はないかと思います。ただ、どうしても人によっては、このマイナススコア同士で比較していること自体に違和感があったり、直感的な理解がしにくかったりという、意見は聞きますので、やはり懸念点としてあると考えています。

検証①-2 NPS®の計算式は、日本においても海外と同様のロジックでよいのか?

これらの懸念点をクリアにするために、対策方法として最初は「NRSを調査することで、こういった懸念点がクリアになったりしないか」ということで実験をしたのですが、もう1つ考えており、それは「計算ロジックを変えたらどうか」というものです。それを考えるために下図のような質問も用意していました。
 

NPS®の括り方を変更する根拠となるデータを聴取するための質問
図 NPS®の括り方を変更する根拠となるデータを聴取するための質問

 
これは、批判(0~6点)、中立(7~8点)、推奨(9~10点)という括り方をNPS®ではしますが、この括り方を変更する根拠となるデータを聴取するための質問となります。ポイントとして、「批判的ではない点数○点以上」、「推奨している点数○点以上」を数値記入で回答いただくところにあります。この回答結果が下グラフです。
 

批判的ではない点数と推奨している点数のグラフ
図 批判的ではない点数と推奨している点数のグラフ

 
「批判的ではない点数」というので回答してもらった時に最も多いのは、5点という結果になりました。そして、「推奨している点数」というので回答してもらった時に多いのは、7点と8点が多く、一番多いのは7点でした。そのため、「NPS®のロジックの批判を例えば、0~4点、中立を5~7点、8点~10点を推奨というふうにしたほうが良いのではないか」と1つ考えられるかと思います。この考え方のスコアを「修正版NPS®」と以下表現し、通常のNPS®のスコアを既存NPS®と表現します。
 

既存NPS®と修正版NPS®のスコアの比較

ここで、先ほど紹介した既存NPS®を左側に、今回調査によって得られた考えの修正版NPS®を右側に表した(あらわした)表(ひょう)が下表です。
 

既存NPS®と修正版NPS®のスコア
図 既存NPS®と修正版NPS®のスコア

先程の繰り返しになりますが、修正版スコアの表は批判を0~4点、中立を5~7点、8点~10点を推奨に変更して算出したスコアになります。この左の表と右の表を見てみると、だいぶ違う見え方の印象は違うかと思います。また、各指標の相関係数は、以下のようになっています。
 
NPS®と修正版NPS®スコア:0.97
批判者(左)と批判者(右):0.85
中立者(左)と中立者(右):-0.66
推奨者(左)と推奨者(右):0.84
 
これらのことから、中立者以外は0.8以上の強めの相関となり、中立者はマイナス相関であることがわかります。また、修正版NPS®スコアでは、プラスとマイナスで数値が出ており、通常のNPS®と異なり、プラスの数値があるので、スコアの最大・最少含め、感覚的にわかりやすいかと思います。そして、修正版NPS®スコアでマイナスが出ている企業を見ると、他の企業に比べて「批判者が多い点」と「推奨者が少ない点」がみえてきます。そのため、この計算方法は一般的なNPS®の計算方法と比べ、結果がわかりやすく扱いやすいと感じました。
 

 
 

まとめ

ここまで、NPS®とNRSの基本的なことや比較・検証について解説してきました。
 
現代の企業活動において、顧客ロイヤリティーを正確に把握し、それを施策に活かすことは、競争力を維持するうえで欠かせない要素となっています。特に、市場ごとに異なる文化的背景や消費者の特性が存在する場合、グローバル基準の手法をそのまま適用するのではなく、各市場の特性に応じた指標や方法を取り入れることを検討することが重要です。
 
NPS®は、顧客の推奨意向を測るうえで有効な指標である一方、日本では計算ロジックの見直しにより、数値の判断のしやすさがわかりやすくなる可能性を示唆しました。聴取方法自体は元のNPS®と同じであるため、これまで聴取したデータもそのまま活かすことができるので、計算方法を変更することについて検討の価値があると考えております。
 
ぜひ、本記事で紹介した内容を参考に、NPS®やNRSを効果的に活用してみてください。顧客の声に耳を傾け、市場に適した指標を使いこなすことで、企業の成長と持続的な競争力強化に役立てていただければ幸いです。
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

 
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