公開日:2025.04.07

自社製品・サービスの適正価格とは?PSM分析とCVM分析の基本から解説

  • マーケティングリサーチHowto

商品を販売するうえで、「価格」が重要な要素の1つとなることは、皆様もご存じの通りでしょう。
マーケティング4つのPの中に「Price(価格)」が含まれていることからも、重要度の大きさがうかがえます。
 
しかし、事業者のなかには、いくら価格が重要とはいえ「実際にいくらで販売すれば良いか分からない」「価格の候補はいくつかあるが、どの価格を採用すべきかの判断材料がない」「価格ごとの受容性が分からず、価格を決めることができない」などのようなお悩みを抱えていらっしゃる方も多くいらっしゃいます。
 
そこで今回は、製品やサービスの適正価格や価格受容性を把握するために用いられる、PSM分析とCVM分析それぞれの手法、特徴、そして両者の違いを解説します。
 

Tips:マーケティング4つのPとは
市場を分析するフレームワークの1つで、4Pとも呼ばれます。「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(広告)」の4つから構成され、これらの要素を相互に関連付けながら分析することで、顧客へ提供する価値と利益の最大化を目指すことができます。
詳しくは「市場分析とは?主な分析フレームワークとメリット、実施方法を紹介」をご覧ください。

 

 
 

PSM分析とは

まずはPSM分析から解説します。
 
PSM分析は、「回答者である消費者の感覚から商品サービスに対する価格帯を解析する」分析手法です。主に「商品の価格に対する消費者の意識がわからない」「現行品の価格を見直したい」「新商品をいくらで販売すれば良いかわからない」のように、価格の見直しや設定を行う際に用いられます。PSM分析を行う際には、回答者の皆様に「高すぎて手が出ないと感じる価格」「高いと感じる価格」「安いと感じる価格」「安すぎて品質を疑う価格」4段階ごとの回答を、下記のイメージ図のように聴取していきます。
 

図 PSM分析の質問票
図 PSM分析の質問票

 

PSM分析の結果の見方

そしてこれらの回答から累積分布を取った分析結果が下図になります。
 

図 PSM分析の結果
図 PSM分析の結果

 
この分析結果から、4つのデータ曲線とそれらの交点を見ることができます。交点とそれぞれの意味は、下記の通りになります。
 

表 PSM分析の内容
項目 内容
下限価格 これ以上安いと品質に不安を感じ、消費者が手を伸ばしにくくなる価格
理想価格 購入に否定的な消費者が最も少ない価格
⇒最も多くの消費者が買う可能性がある価格でもある
妥協価格 「この程度の価格であれば」と消費者が妥協できる価格
上限価格 現状の性能では、これより高いと購入されない価格

 
この分析結果の見方ですが、まず理想価格を確認し、販売したい製品やサービスのコストに見合っているかを確認します。見合っていれば理想価格を採用し、見合っていなければ次に妥協価格を確認し、価格の指標として採用できるか検討します。
 
上記の図を例に考えると、理想価格は3,241円、妥協価格は3,452円なので、費用に見合う場合は3,200円台、そうでない場合は3,450円程度の価格設定が理想的であると考えられます。
 
ただしPSM分析を用いる際には、製品のブランディングなど、販売する条件を考慮したうえで価格を設定する場合もあることに注意が必要です。例えば、指輪や腕時計のように、高級路線をとる場合は上限価格を参考にする場合もあり、一方でディスカウントストアでの販売や、特別セールで安売りをするように、低価格を売りにする場合は下限価格を参考にする場合もあります。
 

PSM分析の注意点

一方でPSM分析を用いる際には、「必ずしも理想価格を見るわけではない」と、「分析結果の解釈が難しくなるケースがある」ことに注意が必要です。
 
1点目の「必ずしも理想価格を見るわけではない」ですが、これは製品のブランディングなどの条件次第では参考にする価格帯が変わるパターンもあるということです。例えば指輪や腕時計などで高級路線を採用する際は敢えて上限価格を採用したり、一方でディスカウントストアでの販売や特別セールなどで安売りをする場合は下限価格を参考にしたりと、販売したい商品やサービスによって使い分けるべきでしょう。
 
2点目の「分析結果の解釈が難しくなるケースがある」ですが、要因としては「回答者が自由に数値を入力することができるため、分析結果の解釈が難しくなるリスクがあること」「製品によって向き不向きがあること」が挙げられます。
※選択肢を表示する場合もあります。
 
まず「回答者が自由に数値を入力することができるため、分析結果の解釈が難しくなるリスクがあること」ですが、これは市場価格から大きく乖離していたり、実現不可能であったりするような価格が出現する可能性があるということです。前述したように、PSM分析は消費者の目線で回答されます。そのため、コストと全く釣り合っておらず実現できないような価格が出現してしまうこともあります。
 
次に「製品によって向き不向きがあること」ですが、具体的には「高額・安価すぎる」製品や「価格をイメージしにくい」製品が挙げられます。これらの製品は回答者ごとにイメージする価格の幅が広すぎたり、逆に狭すぎたりするため、回答者によって価格に大きなばらつきが出てしまうことがあります。
 
これらの「外れ値」や「過度なばらつき」の発生は分析に支障をきたすため、少しでもそのリスクを抑えることが望ましいですが、そのために大切なのが調査設計です。課題を明確にすること、複数の仮説を立てること、調査の対象者を課題や仮説などから適切に設定することで、そういったリスクを抑えることができます。
 

PSM分析のまとめ

ここまでPSM分析について、基本的なことから分析結果の見方、注意点について紹介してきました。これまでの内容を一旦まとめてみると、以下3つとなります。

  1. 「回答者である消費者の感覚から商品サービスに対する価格帯を解析する」分析手法
  2. 累積分布を取った分析結果から4つの価格帯(下限価格・理想価格・妥協価格・上限価格)がわかる
  3. 注意点は2つあり、「必ずしも理想価格を見るわけではない」、「分析結果の解釈が難しくなるケースがある」

また、メリットとデメリットでまとめる場合、下表となります。

表 PSM分析のメリットとデメリットのまとめ
項目 内容
メリット ・回答者が自由に数値を入力するため、生活者視点での価格の指標が算出できる。
・設問設計がシンプル、かつ1問での聴取が可能なため、全体の調査設計を圧迫しない(回答負荷が高くなりにくい)。
・理想価格のほか、上限価格から高価格製品における価格決定の参考指標や、下限価格から特売時の価格決定の参考指標が得られる。
デメリット ・生活者視点のため、実現不可能な価格指標になる可能性がある。
・各価格指標における需要率は分からない。
・高額すぎる製品・サービスは価格レンジが広くなり、不向き
・安価すぎる製品・サービスは価格レンジが狭くなり、不向き。
・価格のイメージが全くつかない最新の製品・サービスや専門的な製品・サービスは回答のブレが大きく、不向き。

 
このように、PSM分析はメリットで記載している通り、とても有用な分析手法になります。しかしながら、デメリットや注意点もあるため、事前に「本当に自社の製品やサービスに対して、この分析手法が適しているのか」検討するようにしましょう。
 

 
 

CVM分析とは

続いてCVM分析についてご紹介します。
 
CVM分析は、「商品やサービスの各価格帯において、それぞれ『どの程度の購入率が見込めるか』という『受容性』を算出する」ための分析手法です。具体的には価格帯ごとにどの程度の購入率が見込めるかを把握するため、あらかじめ価格帯を決め、その各価格帯における購入意向を段階的に聴取することで、いくらであればどの程度の購入率が見込めるかを聴取していきます。
 
この手法を用いる具体的な場面としては、「消費者の価格に対する受容性が知りたい」「現行品の価格を見直したい」「検討している価格が複数あり絞り切れない」などが挙げられます。
 
CVM分析を行う際には、下記のように複数の価格帯の選択肢を提示し、価格ごとの購入率を把握していきます。

図 CVM分析の聴取イメージ
図 CVM分析の聴取イメージ

 
このように段階を踏んで、価格ごとに購入意向を質問します。場合によって、高価格から低価格の流れで伺う設問構成にしたり、選択肢を5段階評価(例:購入したい、やや購入したい、どちらともいえない、あまり購入したくない、購入したくない)にしたりすることもあります。
 

CVM分析の見方

下図は先ほどの聴取イメージから、CVM分析の結果をまとめた一例になります。
 

図 CVM分析の結果の一例
図 CVM分析の結果の一例

 
この結果から、回答者のうちどの程度の方が購入意向を示したのかを把握することができます。
 
例えば、調査における販売想定価格が400円、目標とする購入意向率が80%場合、価格が400円であれば60%の回答者が、150円であれば80%の回答者が「購入意向あり」と回答しています。従って、目標とする購入意向率に400円では満たないため、販売価格を検討する必要があります。
 
CVM分析では、このようにして価格帯ごとの受容性を細かく把握することができます。
 

CVM分析の注意点

CVM分析の注意点は、「価格設定に企業の目線が介在するため、消費者視点でのフラットな回答が得られるわけではない」という点が挙げられます。前述の通り、CVM分析は調査実施者があらかじめ価格を決定したうえで行われます。そのため消費者と実施者の間で価格のイメージに大きな乖離があった場合、分析結果の活用が難しくなってしまいます。極端にはなりますが、もし「調査実施者が高価格帯で販売できると思っていたが、消費者は低価格帯でないと買いたいと思わない」という状況があった場合、用意した価格全てにおいて、「購入意向なし」となり、購入意向率の変化を捉えることができません。
 
従って、事前にプレテスト(事前調査)を行って消費者の価格に対するイメージを把握するなど、提示する価格帯は慎重に決定する必要があります。このプレテストで手段として挙げられるのが、先ほど紹介したPSM分析です。以下のような段階的なアプローチを取ることで、CVM調査における価格設定の精度を高め、より消費者視点に近い結果が得られる可能性が高まります。
 
まず、プレテストでは「いくらなら高いか」「いくらなら安いか」といった設問を含むアンケート調査を通じて、生活者の価格感覚や受容範囲を測定します。得られたデータをもとに、上限価格・下限価格・妥協価格・理想価格といった価格指標や交点(例:妥協価格と理想価格が交わる地点)を集計・分析することで、適正価格帯が明らかになります。
 
次に、その結果を踏まえて本調査における提示価格を設計し、対象者にとって無理のない、かつ購買意向や価値評価に影響を与えうる価格を設定します。これにより、先ほども紹介したCVM分析の注意点である「消費者視点でのフラットな回答が得られない」という点を改善し、消費者の意識やニーズをより正確に反映した販売戦略を立案することができます。
 

CVM分析のまとめ

ここではCVM分析について、基本的なことから分析結果の見方、注意点について紹介してきました。これまでの内容を一旦まとめてみると、以下3つとなります。

  1. 「商品やサービスの価格帯についての受容性を算出する」ための分析手法
  2. 価格帯ごとの細かな受容性がわかる
  3. 「価格設定に企業の目線が介在するため、消費者視点でのフラットな回答が得られるわけではない」点に注意する必要がある

 
また、メリットとデメリットでまとめる場合、下表となります。

表 CVM分析のメリットとデメリットのまとめ
項目 内容
メリット ・販売想定価格に対するピンポイントな価格受容性の確認が可能。
・300円は60%、400円は45%の購入意向率など、各価格帯における
細かな受容性の確認が可能。
・提示する価格を決めることができるため、PSM分析に比べて実現不可能な
結果にはなりづらい。
・価格をイメージしにくい新製品・サービスでも対応が可能。
デメリット ・あらかじめ、提示する価格帯を調査実施者で決める必要があるため、価格の設定に企業視点が介在する。
・あらかじめ、提示する価格帯を調査実施者で決める必要があるため、場合によっては提示価格を決定するためのプレテストが必要になる。
・PSM分析のように、上限価格や理想価格などの価格の幅はわからない。
・価格帯の種類だけ設問が必要になるため、全体の調査設計を圧迫する。

 
このように、CVM分析はPSM分析とは異なる役割を持ちます。自社での価格設定が必須である点や、プレテストが重要な役割を持つ点など、行うべき作業はPSM分析と比較すると多めかもしれません。
 
しかしそれらは、分析結果を有意義なものにするためには欠かすことができない要素となります。調査を成功させるためにも、CVM分析を実施する際は上記のメリットなどを意識するようにしましょう。
 
 

PSM分析とCVM分析の使い分けについて

PSM分析とCVM分析は、どちらも価格に対する分析手法であるため、イマイチ使い分けの点で分かりづらい部分があるかもしれません。ここでは、使い分けがイメージできるよう簡単にそれぞれの分析手法を下表でまとめました。

表 PSM分析とCVM分析の特徴
手法 PSM分析 CVM分析
目的 商品・サービスに対する理想価格を把握 設定価格に対する受容性を把握
内容 回答者の感覚から「商品・サービス」に対する『価格帯』を解析する 「商品・サービス」の価格帯について、どの程度の購入率が見込めるか『受容性』を算出する
視点 顧客視点 企業視点

 
目的から、明らかにできることがそれぞれ異なるため、繰り返しになりますが「価格における、どんな内容を明らかにしたいのか」をよく検討することが重要です。その明らかにしたい内容から、どちらか一方の分析手法の実施、それとも両方の分析手法の実施なのか、決定することができます。

 
 

まとめ

ここまで、PSM分析とCVM分析それぞれの基本から注意点、メリット・デメリット、使い分けについて解説いたしました。
 
PSM分析やCVM分析は、それぞれの特性や注意点を理解し、目的に応じて使い分けることで、より納得感のある価格設定が実現できます。
 
ぜひ、本記事を参考に自社の商品やサービスの価格戦略を見直し、売上や顧客満足度の向上につなげていきましょう。
 

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

 
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