
2024.09.02
社会調査のアンケートの質問例と調査票の作り方を解説
社会調査において、アンケート調査は人々の意識や行動を探る上でとても重要な調査手法です。行政機関や大学、自治体、地域コミュニティなどの様々な組織や団体で、この社会……
公開日:2025.04.11
みなさんはアンケートに回答している時、自由回答を煩わしいと思ったことがありませんか。すぐに回答できる選択式に比べて、自由記述回答はユーザー負担が大きく敬遠されがちです。
確かに、選択式回答は情報を数値化しやすく、現状を客観的に分析するにはとても優れた手法です。しかし、選択式は事前に用意された回答の結果しか入手できないため、回答者の深い心理を読み取ることには不向きです。この選択式回答の欠点を補い、ユーザー心理を深掘りできる質問形式が「自由記述回答」です。
この記事では、アンケート自由記述回答のメリットや作成時のポイント、集計方法・分析について解説します。
みなさんはアンケートで「商品に対する意見や要望を、ご自由にお書き下さい。」というような質問をされたことがあるのではないでしょうか。このように、ある質問に対して選択肢を用意せず、自由に回答してもらう方法を「自由記述回答」と呼びます。
自由記述回答には文章によって回答してもらう形式や、「あなたのおおよその年収はいくらですか?」などのように数値を自由に記入してもらう形式があります。文章形式の回答はユーザーが抱えている心理を読み取るのに適していて、数値形式の回答は平均値などより実態に近い数値データを算出したいときに用いられます。
自由記述回答には、選択式回答では得られない大きなメリットがある反面、運用上の問題点となるデメリットも存在します。ここでは、その両面について解説します。
自由記述回答はユーザー心理を引き出しやすい
優れたアンケートには回答から有益な分析結果を導くため、市場環境やユーザー心理を想定した「仮説」が立てられています。アンケートは適切な仮説に基づいて作られるほど、より的確な回答結果が得られます。
しかし、どれほど優れた仮説を立てようとしても、そこには必ず限界があります。なぜならユーザー心理は誘導されることはあっても、外部から強制することはほとんどできないからです。そのため、基本的にユーザー心理は個人によって違っていて、すべての人に当てはまる仮説は存在しません。
選択式回答の選択肢は、アンケート制作者の「仮説」に基づいて設定されます。もし、この選択肢に「もれ」があった場合、「その他」というあいまいな情報には分類できても、その詳細を知る方法はありません。
この選択式回答の大きな弱点を補えるのが、自由記述回答です。自由記述回答はユーザー心理を引き出しやすいため、事前に想定できなかった意見や要望を得ることができます。これらの回答には、アンケート制作者が考えもしなかった「気付き」が含まれることがあります。この「気付き」には、業界に携わっているからこそ気付けなかった「コロンブスの卵」的なヒントが見つかるケースがあります。自分たちが気付けなかったということは、競合も気づいていない場合が多く、そのヒントがブルーオーシャン(競合相手のいない未開拓の市場)開拓へとつながったケースもあります。
想像を超えた情報入手の可能性
上記以外に質問とは全く関係ないクレームや要望が記入されるなど、アンケートの意図とは違う部分で、マーケティング改善につながる情報を得られるかもしれません。自由に回答できるからこそ、何が手に入るか分からない。そういった制作者の想像を超える情報の入手が、自由記述回答の大きなメリットです。
データの取扱いに手間がかかる
自由記述回答最大のデメリットは、データの取扱いに手間がかかることです。アンケートの回答を関係者で共有するためには、その情報をどこかの段階でデータ化する必要があります。そのデータ化する際に、自由記述回答は選択式よりも大きなコストをかけなければなりません。
選択式の場合、データは数字にて入力されます。しかし、自由記述回答は文章または要点を入力しなくてはならないため、入力の手間は何十倍にもなってしまうでしょう。また、入力するのは文字データのため、数値データのように簡単には集計できません。
また、自由記述されたデータは、数値データのような比較が難しいのも特徴です。数値データの場合、「A:50%」「B:25%」というように分析すれば、多くの方がすぐに比較できます。また、データで示された内容への信頼度も高く、説得力の高い分析結果が得られます。
分析者のスキルが必要
自由記述の回答はあくまで個人の考えです。その回答に大きなヒントを見出せるかどうかは、分析者のスキルに頼らざるを得ません。優秀な分析者にとっては「ものすごいヒント」となる情報であっても、スキルが低い分析者には「ひとつの意見」として見過ごされてしまう可能性があります。
回答者の負担が大きい
自由記述回答では、回答者の負担が大きいことへの考慮が重要です。アンケート内に自由記述回答の質問が多いと、アンケートそのものへの回答を取りやめてしまう可能性があります。アンケート票作成の際は回答者の負担が過度にならないよう、アンケートの目的に応じて質問のバランスを調整してください。
自由記述回答はその特徴から、非常に効果的なアンケートとそうでないものに大きく分かれます。ここでは、自由記述回答が効果的なアンケートの質問について解説します。
「購入した」「買わなかった」「購入候補に挙げた」など、購買や利用の意思決定に至った理由を聞くのに、自由記述回答は適しています。意思決定は誰かに強制されない限り、基本的には人の心理が判断します。いくつかの主だった理由は選択肢として挙げられますが、多様な理由をすべてカバーすることはできません。
また、選択肢が事前に用意されていると、人は回答する際に選択肢の影響を受けてしまいます。その結果、回答者の本音が引き出されないケースも考えられます。理由を回答してもらう際に影響を及ぼす事前情報を減らすことで、回答者の本音が引き出しやすくなります。
商品やサービスをどのように利用したのか、その上でどのような感想を抱いたのかなども、自由記述回答が適している質問です。人は行動を起こすとき、自分の考えを自覚しているケースばかりではありません。むしろ深く考えないで、何気なく行動していることの方が多いのが実情です。
このような場合、「なぜ」という質問を回答者に投げかけても、うまく回答できないことがよく起きます。その場合、回答者の心理ではなく行動を知ることで、回答者が自覚できていない意図を読み取ることができます。また、利用者の中には、商品やサービスをつくった人の想像を超える独創的な使い方をする場合があります。そのような利用方法は、商品やサービスの新たな価値創造につながるケースもあります。
お客様は商品やサービスを利用後、その時点での評価を下します。その評価内容の詳細を知りたいときにも、自由記述回答は有効です。
詳細の中でも、「要望」「不満」には、現時点における商品やサービスの問題点が浮き彫りにされます。この問題点を把握できれば、企業のマーケティングに大きく反映できる可能性があります。
自由回答欄は回答者にとって、制作者が考える以上に心理的負担の大きい質問形式です。この負担が大きすぎると、回答者は回答することをやめてしまうケースが多々あります。
アンケートは正しく回答されて回収できてこそ、その意義が生まれます。回答そのものを避けられてしまっては、元も子もありません。
自由記述回答は心理的負担が大きいことを認識して、重要なポイントに絞って質問を設けることを意識しましょう。
人にはネガティブな感情ほど、誰かに聞いてもらいたいと考える傾向があります。自由記述回答してもらう際も、何かしらネガティブな感情のきっかけをつくると、回答者から意見を引き出しやすくなります。
例えば、飲食店でのアンケートを考えてみましょう。
これら2つの設問を比較すると、おそらく後者の方が記入する内容をイメージしやすくなります。このようにネガティブな感情をきっかけとして、回答率を高める方法も考慮してみましょう。
アンケートは、アンケートを実施した後、回答結果がcsvなどの形式でデータとして得ることができます。これを「ローデータ」とよび、何も加工されていない初期が段階のデータとなります。通常、回答者がどの質問に対して、どのように回答しているのかが、1サンプル1行で記載されています。もし、紙アンケートで回答を集めた場合、「入力を間違いないように」このローデータを自ら作る必要があります。
そして、これらの回答を分析するために行う前の段階が集計となるのですが、自由記述回答の場合、「数値」と「言葉」によって集計方法が大きく異なり、分析の要素も入ってきます。
自由記述回答が「○○円」「○○回」などのように数値で扱える場合は、「どういった傾向があるか」など分析するため、何かしらのルールを決めて、そのルールに従って分け、集計します。
例えば、以下のような分け方があります。
その他にも、「~100円」「101円~200円」「201円~300円」といった範囲で集計する方法もあります。
いずれも、調査目的を明らかにするためにどういった分け方にするか決め、集計します。そして、その上で、得られた情報からより詳しく分析をしていきます。
自由記述回答が「言葉」の場合に用いられる代表的な方法は以下です。
アフターコーディング
自由記述回答された内容を意味の似通ったカテゴリーごとに分類し、コード化する作業のことをアフターコーディングと呼びます。
そして、大部類としての「ポジティブな理由」はどれくらいの件数があったのか、中分類の「使いやすそう」はどれくらいの件数があったのか、というのをそれぞれ集計します。こうすることで、言葉で回答していただいたテキストデータが、「ポジティブな理由が100件あり、全体のうち約7割を占める」といった数量的な内容(数値データ)に変換することができます。
また、すでに分析のような動きをしていますが、より分析することも可能です。性別や地域など、分析したい項目を集計軸として、下図のようにクロス集計することで、各コーディングされたデータを細かく確認できます。
とても便利なアフターコーディングですが、「分類には多大な作業を伴うこと」「分類者の主観が反映されやすいこと」などの問題点もありますので、注意しましょう。
テキストマイニング
テキストマイニングとは言葉を単語や文節で区切って、その出現頻度や言葉同士が出現する相関関係を分析し、マーケティングに活用可能な情報などを抽出することです。言葉を視覚化および定量化することに有効で、アフターコーディングだけでは見えない要素や単語の繋がりを見ることができます。
テキストマイニングの例として、弊社(アスマーク)の事例を紹介します。
仕事を頑張ったご褒美として、「美味しいものを食べる」「お酒を飲む」「好きなもの・欲しいものを買う」「旅行に行く」「マッサージ・エステに行く」などの行動をして、「気持ちの高揚」や「癒し」を得ることが自分への理想的なご褒美だと答えていることがわかります。
また、バブルの色は品詞(動詞・名詞・形容詞など)により分けられており、出現頻度が多い単語ほどバブルが大きく、共起の程度が強いほど線が太くなっています。男女別、年代別、役職別などでグラフは変わります。そのため、傾向を比較してみても良いでしょう。
このテキストマイニングは、一般的に専用ツールを使います。専用ツールのボタンひとつで、テキストデータを単語レベルに分解し、品詞ごとにジャンル分けし、重要度を(TF-IDF法という統計処理をかけて)重みづけした上、単語のスコアリングをすることができます。専用ツールを使わない場合は、上記全てを手作業で行なう必要があります。工数が多くかかるだけでなく、TF-IDF法などの高度な知識も必要となるため作業としての難易度は高くなるでしょう。
自由記述回答形式のアンケートは、使い方によっては企業に大きな財産を生み出す可能性があります。しかし、その運用については、設計から分析までの各段階において慎重に対応しないと、回答率の大幅減や集計のコストアップを招いてしまいます。また、分析結果の読み込みについては、かなり高いスキルを求められるでしょう。
アンケート実施にあたっては、他社事例や外部ノウハウをうまく活用し、高い費用対効果が期待できる計画を立案していきましょう。そこで大きな「宝物」を見つけて、自社のマーケティングを大きく発展させていきましょう
市場調査についてのご相談はこちら>
【検証レポート】「聞き方の違い」「アンケート画面の作り」による回答への影響とは?
アスマークのリサーチャーによる実験調査シリーズの第3弾として、今回は様々な業種や商材をテーマに、NPS・NRS間における比較を初めとした「聞き方の違い」に焦点を当て、どの程度調査結果が変容するかを調査しています。
下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● モニターの回答バイアスを最小限に抑えたい
● NPS・NRSのどちらが自社のアンケートに適すか知りたい
● 自社カテゴリに合うアンケートの特性を知り、調査設計や実務へ活かしたい
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コーディング(=アフターコーディング)とは
自由回答(FA)の内容を意味の似通ったカテゴリーごとに分類し、コード化する作業のことを言います。コード化した上で定量的にデータ処理をします。また、作成されたものをアフターコードと言います。
自由回答は文字通り自由に意見を回答してもらう場合(「お感じになったことをどのようなことでも結構ですのでご記入ください」等)や、5段階評価の選択理由(「非常に好き」と答えた理由等)のように制限を加えずに回答させる方法です。
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