公開日:2025.02.27

アンケートにおけるトラップ設問の重要性を解説

  • マーケティングリサーチHowto

近年、企業のマーケティング戦略において、顧客の声を意思決定に活かす重要性がますます高まっています。そのため、顧客のニーズや要望を集める手段として広く活用されているのが、アンケート調査です。しかし、アンケート調査の質は、回答者の誠実さに大きく左右されます。特にオンラインアンケートでは、いい加減な回答や、意図的に誤った回答が含まれることがあります。このような不誠実な回答は、調査結果の信頼性を大きく損ない、誤った意思決定につながる恐れがあります。そこで注目されているのが「トラップ設問」です。
 
この記事では、トラップ設問の概要から、その重要性、具体的な活用方法、導入時の注意点などを解説します。

 
 

トラップ設問とは?

アンケート調査におけるトラップ設問とは、回答者の回答精度や信頼性を測るために意図的に組み込まれる設問(質問)です。特に、オンラインアンケートでは、不誠実回答者(Satisficer)の存在が問題となっていて、その対策として用いられています。
 
不誠実回答者は、質問文をよく読まなかったり、深く考えずに回答したりする傾向があるため、アンケート結果の信頼性を大きく損なう危険性があります。そこで、トラップ設問によって回答者が「質問をしっかりと設問を読んでいるか」「論理的に矛盾した回答をしていないか」などを確認し、不誠実回答者を検出し、品質の管理をします。
 
トラップ設問は、回答者の注意深さや誠実さを測るフィルターとして機能し、より信頼性の高いデータ収集に活用されています。
 

トラップ設問の具体例

トラップ設問には、様々な種類がありますが、具体的な設問文を交えながら代表的なものを紹介します。

表 トラップ設問の具体例と解説
種類 具体例と解説
指示型トラップ設問 この質問では、必ず「はい」を選択してください」といったように、特定の選択肢を選ぶよう指示する質問です。指示通りに回答しない場合は、質問文をよく読んでいないと判断できます。
矛盾検出型トラップ設問 同じテーマについて、異なる角度から質問します。例えば、「週に何回コーヒーを飲みますか?」という質問と、「コーヒーは好きですか?」という質問を組み合わせます。矛盾した回答をしている場合は、回答に一貫性がないと判断できます。
知識確認型トラップ設問 一般常識や、調査対象に関連する知識を問う質問です。例えば、「日本の首都はどこですか?」といった質問や、特定の製品に関する知識を質問します。明らかに間違った回答をしている場合は、誠実に回答していないと判断できます。
選択肢の順序操作型トラップ設問 同じ質問で選択肢の順序を入れ替えたものを複数用意し、回答者が同じ選択肢を選んでいるかどうかを確認する質問です。注意深く読んでいないと、異なる選択肢を選んでしまう可能性があります。
ありえない選択肢混入型トラップ設問 選択肢の中にありえない選択肢を入れる設問です。例えば、「日本の都道府県を選択してください」という設問に対して、「ニューヨーク」などの海外の都市を入れておくような設問です。明らかにありえない選択肢を選んでいる場合は、回答の精度が低いと判断できます。

 

Tips: 不誠実回答者(Satisficer)とは?
「不誠実回答者(Satisficer)」は、「satisfy(満足する)」と「suffice(十分である)」を組み合わせた言葉であり、回答報酬を効率よく獲得するため、設問文を読まず、選択肢の1番目だけを選択し続けて回答を終えるなど、不誠実な回答を行い、アンケート調査の信頼性を大きく低下させる人です。彼らは、アンケートデータの信頼性を大きく損なう要因であるとともに、調査結果に歪みをもたらし、誤った意思決定につながる可能性があるため、適切な対策が必要です。
※ 不誠実回答者は、『省力回答者』や『サティスファイサー』と言われることもあります。

 
 

アンケート調査の課題

アンケート調査は、広範囲の意見や情報を効率的に収集できる調査手法です。マーケティングリサーチの中でも実施頻度の高い調査手法となります。特にネットリサーチ(WEBアンケート)は、時間や場所の制約を受けずに実施できるため、多くのアンケート調査で活用されています。
 
その一方で、アンケート調査では、どうしても不誠実回答者(Satisficer)が発生しやすいという課題があります。不誠実回答者が発生する主な理由は、回答に対する責任感の欠如回答者のモチベーション低下です。例えば、報酬目的でアンケートに参加している場合、質問をよく読まずに、適当な回答を選んでしまうことがあります。また、アンケートの質問数が多かったり、質問内容が複雑だったりする場合も、回答者は疲れてしまい、深く考えずに回答する傾向があります。
 
他にも以下のようなケースが挙げられます。

  • 質問文を読まずに、選択肢の最初の方にある項目をとりあえず選んでしまう。
  • 同じような質問が続いた場合に、すべて同じ選択肢を選んでしまう。
  • 自由記述欄に、意味不明な文字列や、質問と無関係な内容を記入する。

 

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パネルの特徴から生じる不誠実回答者(Satisficer)

アンケートパネルは、アンケートへの協力意思がある人を集めた集団です。このパネルの特性が、不誠実回答者(Satisficer)の発生に大きく影響します。
 

図 パネルの特徴から生じる不誠実回答者
図 パネルの特徴から生じる不誠実回答者

 

  • どのように集めたパネルなのか?
    パネル登録者の募集方法は、不誠実回答者の発生に関係します。例えば、短期間で大量の登録者を募るために、SNS広告やポイントサイトなどを利用した場合、アンケートへの関心が低い層や、複数のアカウントを使い回す層が混入しやすくなります。
  • どういう調査の募集が多いパネルなのか?
    頻繁または過剰に調査依頼を送るパネルでは、回答者のモチベーションが低下し、不誠実な回答が増える傾向にあります。特に、回答時間が短くて謝礼の少ない調査が多い場合、回答者は時間をかけずに回答を終えようとするため、質問をよく読まなくなる可能性が高まります。
  • 謝礼の金額や換金方法のバリエーションが多いのか?
    謝礼の金額や換金方法のバリエーションが多いことで、回答精度が上がります。『謝礼の金額が多い』場合、次回の調査募集でも声をかけてもらえるように、誠実な回答を心がけ、結果として回答精度が上がります。『換金方法のバリエーションが多い』場合、UX向上などからモチベーションが引き上げられ、不誠実な回答を抑制することができます。
    ただし、注意することもあります。謝礼の金額や換金方法のバリエーションが多いことから、副業目的なモニターも登場してきます。このモニターは、ブラックリスト入りなどにならないように、正しい回答をするように心がけるモニターとなり、その状況というのは、バイアスがかかっている状況と言えます。そのため、「正しい回答をしようとする」バイアスがかかっている(自然な状態ではない)モニターも発生し、存在することを鑑みた上で、分析する必要があります。
  • 運営体制やセキュリティは高いのか?
    運営体制やセキュリティが不十分なパネルでは、登録情報の信頼性が低く、不誠実な回答をする人物が混入しやすくなります。例えば、本人確認が不十分な場合、同一人物が複数アカウントを作成したり、虚偽の情報を登録したりする可能性があります。

 
 

なぜトラップ設問が重要なのか?

アンケート調査で得られる数値データは、企業にとって強い説得力を持ちます。多くの企業では、これらのデータを基に製品開発やマーケティング戦略など、重要な経営上の意思決定が行われています。しかし、もしそのデータ精度が低ければ、企業は誤った方向性で意思決定するリスクが高まってしまうでしょう。だからこそ、アンケート調査において、回答の質を高める仕組みを整えることは、とても重要です。
 
トラップ設問を導入すれば、不誠実回答者(Satisficer)を排除し、回答の信頼性を高めることが可能です。誠実に回答していない人のデータを除くことで、より的確な市場や顧客の声を把握し、企業が確かな意思決定を行うための基盤を強固に築けます。
 
 

トラップ設問を導入する際の注意点

トラップ設問を導入する際にまず考慮すべき点は、「設問数が増えること」です。アンケートの設問数が多くなると、回答者の疲労が増し、途中離脱や適当な回答のリスクが高まります。
 
さらに、トラップ設問による不誠実回答を除去するため、サンプルサイズを増やすことも必要です。例えば、調査分析に必要なサンプル数が400件の場合、不誠実回答の割合を20%と想定すると、調査のサンプルサイズは500件となります。その結果、調査対象者の募集や管理にかかる手間が増えるとともに、企業などは調査全体のコストが上昇するというデメリットが生じます。
 
そのため、トラップ設問を導入する際は、コストと回答者の負担を慎重に検討しながら、調査の目的や精度向上を達成できるように設計することが重要です。
 
 

トラップ設問以外で回答精度を高める方法

トラップ設問以外にも、以下のようなアンケートの回答精度を高める方法があります。

表 アンケートの回答精度を高める方法
方法 内容
回答所要時間 回答にかかった時間が極端に短い場合は、注意深く回答していない可能性があります。このような場合には、一定時間以下の回答は除外するなどの対策をします。
Seriousness Check (SC) アンケートの最後に「あなたは誠実に回答しましたか?」と尋ねる方法です。ただし、回答者が正直に答えるとは限らないため、確実性には欠けます。
警告 不誠実な回答が見られた場合、報酬を得ることができないなど、回答者に警告を出す方法です。警告を出すタイミングは、回答開始前や回答中になります。回答中に警告を表示する場合、検知するロジックを組む必要性と警告が表示される前に回答されたデータの信頼性は保証できないことに、注意が必要です。
宣誓 回答開始前に、誠実に回答することを宣誓させる方法です。ただし、不誠実回答者(Satisficer)が宣誓を守る保証はありません。

 
 
これらは、組み合わせることで回答精度を高めることができ、トラップ設問と組み合わせて、検討することが必要です。
 
 

まとめ

ここまで、トラップ設問の重要性について解説してきました。
 
アンケートで得られる情報や分析結果は、企業にとって重要な意思決定の材料となります。だからこそ、トラップ設問によって不誠実回答者(Satisficer)を見極めることが重要です。トラップ設問を適切に活用することで、より質の高いデータを得られ、分析の精度も向上します。その結果、顧客のニーズを把握し、効果的なマーケティング戦略を立案することが可能になります。
 
ぜひ、本記事を参考にして、トラップ設問を取り入れた精度の高いアンケート調査を実施していきましょう。
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

 
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