公開日:2020.02.13

モデレーターとは?リサーチにおける意味や役割、特長をわかりやすく解説

  • 定性調査

現代のマーケティングリサーチにおいて、インタビュー調査は重要な情報収集手段として広く活用されています。その中で、特に重要な役割を担うのがモデレーターです。モデレーターはディスカッションの進行を管理し、各参加者の意見を引き出しながら、バイアスを避け、公正な視点を保つ専門家です。

この記事では、インタビューにおけるモデレーターの役割や特長、さらには、インタビューの具体的な進行テクニックや注意点について解説します。

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モデレーターとは?

「モデレーター」という言葉は様々な分野で使用されますが、一般的には「調整役」や「仲介役」を意味します。

例えば、オンラインフォーラム(オンライン上で参加者が意見交換や情報共有、ディスカッションする場のこと)やコミュニティサイトでは、秩序を保ち、活発な議論を促進するためにモデレーターが配置されることがあります。不適切な投稿を削除したり、議論が脱線しないように軌道修正したりするのが、モデレーターに求められる役割です。

また、YouTubeのライブ配信の際など、モデレーターが配置されることがあります。ライブ配信時のコメントの管理やユーザーへのサポート、定期的はお知らせなどを行います。

そして、会議やイベントなどでも、円滑な進行を図るためにモデレーターが起用されることがあります。この場合のモデレーターは、時間配分の管理や参加者からの質問をまとめたり、議論が白熱しすぎた場合に冷静に対応したりするなど、多岐にわたる役割を担います。
 

リサーチにおけるモデレーターの意味

マーケティングリサーチにおいて、モデレーターは調査の質を左右する重要な存在です。特に、定性調査と呼ばれるグループインタビューやデプスインタビューでは、モデレーターのスキルや経験が調査結果に大きく影響します。

モデレーターは、単に質問を投げかけるだけでなく、回答者の本音や潜在ニーズを引き出すためのコミュニケーションスキルなどが求められます。そのため、心理学の知見を活かしつつ、参加者の心理状況に応じた柔軟な対応が必要です。また、調査の目的に沿って議論を深掘りしたり、参加者間の相互作用を促したりするなど、状況に応じた柔軟な対応も必要です。
 

グループインタビュー(FGI)におけるモデレーター

グループインタビューにおけるモデレーターの役割は、多様な意見を引き出し、ディスカッションを円滑に進行することです。モデレーターは、参加者が自由に意見を述べられる環境を整え、全員が発言しやすい雰囲気を作り出します。

具体的には、議論が特定の方向に偏らないよう調整し、全ての参加者が均等に発言できるよう配慮します。また、モデレーターは事前に準備された質問を通じて議論を導き、必要に応じて追加の質問を行うことで、深い洞察を引き出します。

グループインタビューで求められるモデレータースキルは、まず高いコミュニケーション能力です。モデレーターは参加者の発言をよく聞き、適切に対応することで参加者との間に信頼関係を築くことができます。

また、迅速な判断力と柔軟性も重要なスキルです。予期せぬ状況や参加者同士の意見が衝突した際にも、冷静に対処し、議論が建設的に進むよう誘導します。さらに、タイムマネジメントのスキルも必要です。限られた時間内に全てのトピックをカバーし、重要な情報を逃さず収集するために、効率的な進行が求められます。
「グループインタビューの進め方|基本から実施、データ収集まで」はこちら>
 

デプスインタビュー(IDI)におけるモデレーター

デプスインタビューにおけるモデレーターの役割は、調査対象者の深層心理や本音を引き出すことです。個別に行われるこのインタビュー形式では、モデレーターは信頼関係を築き、参加者が安心して自身の考えや感情を表現できるように配慮することが大切です。

モデレーターは事前に設定されたテーマに基づきながら、柔軟に質問を展開し、参加者の回答を深掘りしていきます。これにより、調査対象者の本質的な洞察を得ることが可能です。

デプスインタビューで求められるモデレータースキルには、まず共感力が挙げられます。参加者の感情に寄り添いながら、自然な対話を通じて本音を引き出すことが大切です。

また、モデレーターには鋭い観察力も重要です。参加者の言葉だけでなく、微妙な仕草や行動、表情の変化にも注意を払い、それに応じて適切な質問を投げかけます。さらに、予期せぬ回答や新たなテーマが浮上した場合でも適切に対応し、深い洞察を得るための追加質問を行う柔軟性も求められます。
「デプスインタビューの定義~分析:効果的な方法で本音とインサイトを引き出す」はこちら>
 
 

モデレーターの役割

ここでは、モデレーターが担うべき具体的な役割について、解説します。
 

進行管理

事前に準備したスケジュールに従い、時間配分を管理し、円滑な議論が進むように調整します。また、議論が脱線したり、発言が特定者に偏らないように注意を払い、必要に応じて軌道修正したりすることで、質の高い情報収集につなげます。
 

参加者の意見を分析する

参加者の発言内容を注意深く聞き取り、その背景にある本音や感情を分析します。発言の表面的な意味だけでなく、言葉の選び方や声のトーン、仕草、表情にも注目することで、参加者の真意を洞察することが大切です。
 

参加者の深層心理に秘める思いを引出す

参加者の表面的な発言に留まらず、その裏にある本音や潜在意識を探ります。相手の話に共感することで安心感を与えながら、重要ポイントについて深掘りします。その際、グループの雰囲気や参加者同士の関係性を考慮することも大切です。
 

参加者の意見をまとめる

議論全体を俯瞰し、参加者から収集した意見を整理・統合します。共通点や相違点、新たな視点などに着目し、全体像をまとめることが重要です。その上で、インタビューの目的に沿って分かりやすい形で報告書を作成します。
 
 

効果的な成果を残すモデレーターの特長

効果的な成果を残すモデレーターには、いくつかの共通する特長があります。これらの特長は、ディスカッションやインタビューの質を高め、参加者の本音や洞察を引き出すことにつながります。

ここでは、効果的な成果を残すために重要な3つの特長について、解説します。
 

誘導しない

効果的なモデレーターは、参加者の意見や回答を誘導しないことが重要です。誘導的な質問やコメントは、参加者の本来の意見を歪めてしまい、正確なデータ収集を妨げる可能性があります。そのため、モデレーターは中立的な立場を保ち、参加者が自由に考え、自分の言葉で意見を表明できる環境を提供することが大切です。

具体的には、特定の答えを期待させるような言い回しを避けることが大切です。例えば、「あなたはこの製品が好きですか?」と質問すると、調査対象者は「好き」という回答を期待されていると考える危険性があります。このような場合は、「この製品についてどう思いますか?」という中立的な質問で、調査対象者の素直な意見を引き出すことが大切です。

また、参加者が発言する際には、相槌や表情にも気を配り、肯定も否定もしない中立的な反応を心掛けます。
 

沈黙を使いこなす

沈黙は、一見すると不安を引き起こす要素のように思われがちですが、実際には参加者の深層心理や本音を引き出すための効果的な方法です。適切なタイミングで沈黙を保つことで、参加者は自分の考えを整理し、より深い洞察を提供する機会を得られます。

例えば、質問を投げかけた後に少し沈黙する時間を設ければ、参加者が自分の意見をじっくりと考える時間を持つことが可能です。これにより、参加者が自分の考えを深掘りし、より詳細な本音や感情に気づくきっかけとなります。

また、沈黙はモデレーターが参加者の発言を、真剣に受け止めているサインにもなります。モデレーターが参加者の意見を熟考することで、「自分の意見が尊重されている」と感じさせ、より積極的な発言を促すことが可能です。

さらに、沈黙を使いこなすことで、議論の雰囲気を変えることもできます。例えば、議論が白熱しすぎたり、特定の人ばかりが発言したりするような場合は、あえてモデレーターが沈黙することで、発言者に冷静さを取り戻させる、といったことです。
 

発言を途中で遮らない

インタビューでは、参加者一人ひとりの意見を尊重し、最後までしっかりと聞き届けることが重要です。発言を遮らないことで、参加者は自分の意見を最後まで表現でき、モデレーターとの信頼関係を築くことができます。また、参加者は自分の意見をより深く考えることができ、本音や感情を言葉にしやすくなります。

参加者の発言を遮らないためには、モデレーターが積極的に聞く姿勢を示すことが大切です。相槌(あいづち)やうなずきなどの非言語コミュニケーションを効果的に使って、参加者が安心して話し続けられる環境もつくれます。

また、モデレーターには、参加者の話を最後までしっかりと聞く忍耐力も必要です。これにより、参加者は自分のペースで話すことができ、重要なポイントや感情を逃さずに伝えることができます。
 
 

進行テクニック

グループインタビューの成功は、モデレーターの進行スキルに大きく左右されます。参加者の本音を引き出し、活発な議論を促すためには、様々なテクニックを駆使する必要があります。

ここでは、モデレーターが質の高い情報を引き出すための効果的な進行テクニックを紹介します。
 

アイスブレイク

インタビューの開始時に、簡単な自己紹介や共通点を探す会話など、短時間でリラックスできるアクティビティを取り入れるテクニックです。参加者の緊張をほぐし、参加者同士の打ち解けた雰囲気をつくる効果が期待できます。
 

アクティブリスニング

アクティブリスニングは、参加者の発言を注意深く聞き、その意見に理解を示すことで、信頼関係を築くテクニックです。モデレーターは、適切な相槌やうなずき、アイコンタクトなどを通じて、参加者が話しやすい環境を作ることができます。
 

オープンエンド質問

オープンエンド質問とは、「はい」か「いいえ」で答えられない自由回答の質問形式です。「〇〇についてどう思いますか?」「〇〇の経験はありますか?」という聞き方で、参加者の自由な意見や考えを引き出します。
 

フォローアップ質問

フォローアップ質問とは、参加者の発言に対して、その内容をさらに詳しく聞くための質問です。「なぜそう思ったのですか?」「具体的にどのようなことですか?」といった質問で、発言の背景や詳細を掘り下げ、より深い本音や感情を引き出せます。
 

モデレーターの重要性

インタビューで質の高い情報を得るには、調査対象者の本音や深層心理を引き出すことが重要です。しかし、そのような情報を引き出せるタイミングは、インタビューの流れに大きく左右されます。

また、引き出せた情報も抽象的だったり、情報同士の関連性がはっきりしなかったりすることが多々あります。インタビューではこれらの関連性を瞬時に洞察し、その場で深掘りすることも必要です。

だからこそ、モデレーターのスキルは、インタビューを成功させるためにとても重要な要素です。モデレーターはインタビュー全体を通じて中立的な立場を保ち、ディスカッションの方向性を適切にコントロールすることで、質の高いデータを収集することができます。

そのため、モデレーターはインタビューを成功させるために、最も重要な役割を担っていると言えます。
 
 

インタビュー実施の注意事項

インタビューを成功させるためには、モデレーターが以下の注意点に留意することが重要です。
 

  1. 中立性を保つ

    モデレーターは、特定の意見や参加者に偏ることなく、中立的な立場でインタビューを進めることが大切です。自分の意見や感情をできるだけ挟まず、公平性を保つことで、参加者全員が安心して発言できる環境をつくれます。

  2. 誘導的な質問を避ける

    モデレーターは、特定の答えを期待するような誘導的な質問を避ける必要があります。できるだけオープンエンドな質問を用いて参加者の自由な発想を引き出し、多様な意見を収集することが大切です。

  3. 全員が発言できる雰囲気をつくる

    インタビューにおいて一部の参加者が発言を独占したり、逆に発言が少なかったりすると、得られる情報に偏りが起きやすくなります。モデレーターは全員が積極的に参加できる雰囲気をつくり、発言が少ない参加者に意見を求めたりするなどの配慮が必要です。

  4. 時間配分を意識する

    モデレーターは事前に設定した時間配分を意識し、必要な調査内容を網羅することが重要です。議論が脱線した場合や、特定のテーマに時間がかかりすぎそうな場合は、話の流れをコントロールして、時間内に議論をまとめる必要があります。

  5. 会話への集中

    インタビュー中、モデレーターは参加者との会話に集中する必要があります。インタビュー中の発言内容や参加者の反応は、録画や録音などによって記録を残しましょう。

  6. プライバシーに配慮する

    参加者の個人情報や発言内容は、プライバシーに配慮して取り扱う必要があります。事前に守秘義務について説明し、参加者の同意を得ましょう。

 
 

まとめ

ここまで、インタビューにおけるモデレーターの役割や必要なスキル、効果的な進行テクニックなどについて解説しました。
「モデレーターとは?意味やファシリテーターとの違い、役割とスキルを丁寧に解説」はこちら>

グループインタビューやデプスインタビューは、参加者自身も認識していない深層心理から価値ある情報を引き出すのに、とても有効な調査手法です。しかし、その分、調査の難易度が高く、モデレーターのスキルによって得られる情報が大きく異なります。

その一方で、インタビューから価値ある情報を得られれば、新たな市場開拓や革新的な新商品開発に繋がる可能性も秘めています。だからこそ、インタビューを実施する際には、専門スキルを有したモデレーターを用意することがとても重要です。

自社で適切な人材を確保することが難しい場合は、外部の専門家に協力を依頼することも大切です。優秀なモデレーターの確保は、調査の成功に直結する可能性もあります。

モデレーターの役割を正しく理解し、適切なインタビューを実施することで、ビジネスに役立つ情報の収集につなげていきましょう。
 

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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