2022.06.14
商品開発で必要な考え方、意識しておくべきポイントを解説
メーカーにとって「商品開発とは何か」と聞かれたら、次のような答えが出てくるのではないでしょうか。 商品開発とは ●メーカーの存在意義 ●メーカーの責……
公開日:2022.11.11
コンジョイント分析とは、いくつかの要素を組み合わせた「商品全体」を評価してもらうことで、それぞれの要素が商品の選択に対して、どの程度の影響を与えているかを調べる分析方法です。
私たちは毎日、とても多くの選択をしていますが、その中で大きく迷う理由の一つが「トレードオフ」。トレードオフとは「両立できない関係性」を意味し、一つの選択と同時にもう一方は選択できなくなるジレンマを抱えた状態を表します。私たちの日常にはこのような選択がたくさんあふれていて、それはビジネスにおいても変わりありません。
企業が自社の商品やサービスを差別化するには、「品質」「価格」「デザイン」「イメージ」「便利さ」など、いくつかの要素があります。これら全ての要素を満たせれば圧倒的な競争力を持ちますが、残念ながら必ずどこかでトレードオフを生み出します。例えば、ハンバーガーを例に考えてみましょう。あなたが和牛を使用したハンバーガーパテを開発し、それを利用して新商品を企画する立場だとします。パテの味には自信があり、その魅力を活かして2枚入りバーガーにすべきか、それともレタス&トマトをはさんでバランス良く仕上げるかを悩んでいたとします。
もしこの問題を要素ごとにアンケートを取ったらどうなるでしょうか?
当然、全ての要素において満たされている方が魅力が高くなります。ですが、「低価格」「パテ2枚」「レタス&トマト有り」の全てを満たす商品企画はまずできません。その理由は「価格」と「パテ2枚」「レタス&トマト入り」の間にトレードオフが発生するからです。ですが、商品企画担当のあなたとしては、この状態から何かしらの優先順位をつけて、具体的な商品を企画しなければなりません。そのためにも、お客様は「価格」「パテ枚数」「レタス&トマト」のどの要素をどれくらい重視しているか、知りたいと思いませんか?
実は、このようなトレードオフの中で、どの要素が重要視されているかを把握する統計的手法が「コンジョイント分析」です。
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コンジョイント分析は、回答者にいくつかの要素を組み合わせた商品全体を評価してもらい、要素ごとの購買決定への影響度を算出します。顧客が実際に商品を購入する場面では、様々な要素を複合的に考え、その中でベストと思える判断を下しています。ですが、その判断はとても抽象的なことが多く、判断した本人ですら詳しくは理解していないものです。
例えば採算面を考えて、以下の新商品を企画したとします。
この組み合わせの中で、どちらが売れそうかだけを知りたいのであれば、単純に2つのサンプルを提示して比較してもらうだけで済みます。ですが、「和牛パテ」と「レタス&トマト」の商品購入に対する影響度を把握できれば、「和牛パテ 2枚、レタス&トマト有り」のような組み合わせの価格設定について、参考にできるかもしれません。そこで「価格」「和牛パテ 枚数」「レタス&トマト」についてコンジョイント分析を行ってみました。そうすると、以下のような分析結果が得られたとします。
この結果を見ると、お客様にとって最も重要な要素は「レタス&トマト」が入っているかどうかであり、200円の価格差はあまり影響していないようです。そこから考えれば、新商品企画として最も推奨すべきは「価格 500円、和牛パテ 1枚、レタス&トマト有り」となります。このように、複数の要素が絡み合って判断しづらい問題を、統計的に数値化して理解する手法が「コンジョイント分析」です。
コンジョイント分析のメリットは、トレードオフが成立する関係の中で以下のような分析結果を得られることです。
人の判断基準は、トレードオフが働いている状態とそうでない状態では大きく異なります。例えば、みなさんが「価格」を判断するときのことを考えてください。「『和牛パテ1枚』がいくらなら適当だと思いますか?」と質問されると、頭で具体的にイメージするのは難しくないでしょうか?
その一方で「『価格 500円で和牛パテ 1枚とレタス&トマト有り』を買いたいと思いますか?」というように具体的商品をイメージできる質問であれば、より判断しやすくなるのではないでしょうか。回答者がイメージしやすいということは、それだけ実感に近い分析結果を得られる可能性が高いことを意味します。つまり、要素ごとに重要度を調査するよりも、商品全体に評価してもらった結果から分析する「コンジョイント分析」の方が、より精度の高い結果を得やすくなります。
先ほどのグラフで表された通り、コンジョイント分析では要素ごとの重要度を数値として把握できます。それによりトレードオフの中で、どの要素を重視すべきかが明確になります。ハンバーガーの例では「レタス&トマト有り」の要素が、200円の価格差よりも2倍の重要度を持っていると読み取れます。重要度が2倍だから単純に400円の価値があるとは判断できませんが、少なくとも200円の価格差よりは大きな魅力を感じると読み取れます。
そのため、「価格 900円、和牛パテ 2枚、レタス&トマト有り」という商品で採算が取れるのであれば、ラインナップに加える価値は十分にあると考えられます。このように顧客の心理を数値化できれば、より具体的な商品構成を推測できるようになります。
コンジョイント分析をうまく活用すれば、調査の簡素化が図られてコスト削減や回答者の心理的負担軽減につながります。例えば、「価格」「和牛パテ 枚数」「レタス&トマト」のように3つの要素で各2つの条件があった場合、8通りの商品企画ができます。この8通りをそのまま回答者に比較してもらうのは、調査の手間が多くなり、回答者の心理的負担も大きくなります。しかし、コンジョイント分析を用いれば、調査する商品企画の最適な組み合わせを事前に抽出できます。その抽出によって4通りあれば大丈夫となります。そのため、調査の手間も省け、回答者も心理的負担が少なくて済みます。
コンジョイント分析はどのような手順で進めていくかを、ハンバーガーの例を用いて解説します。
まずは、どの要素について分析するかを決定します。調査する側としてはできるだけ多くの要素を盛り込みたいところですが、そこは回答者の気持ちに立って考えることが大切です。調査する要素については3~4程度、それぞれの要素については2~3の選択肢に留めることをおすすめします。
ハンバーガーの例では「価格」「和牛パテ 枚数」「レタス&トマト」の3要素、それぞれ2つの選択肢で進めます。その上で、優れた要素と劣っている要素で組み合わせをつくってみます。
優れている | 劣っている | |
価格 | 500円 | 700円 |
和牛パテ | 2枚 | 1枚 |
レタス&トマト | 有り | 無し |
コンジョイント分析を行うためには、回答者が商品の魅力を判断するために、各要素を組み合わせた「コンジョイントカード」を作成します。通常、ハンバーガーの例であれば8通りの組み合わせがありますので8通りのカードが必要かと思えます。ですが、コンジョイント分析では「直交表」という組み合わせのパターンを使用することで、作成する「コンジョイントカード」の枚数を減らせます。減らせる枚数は要素の数や選択肢数によって異なりますが、ハンバーガーの例では以下の直交表を用います。
水準数 | 2 | 2 | 2 |
列1 | 列2 | 列3 | |
行1 | 1 | 1 | 1 |
行2 | 1 | -1 | -1 |
行3 | -1 | 1 | -1 |
行4 | -1 | -1 | 1 |
水準数とは各要素ごとの選択肢数、列は要素、行は作成するコンジョイントカードを表しています。
使用する直交表が決まったら、各要素をあてはめてコンジョイントカードを作成します。
まずは、直交表の白い枠内に記載されている水準値を優れている要素と劣っている要素にあてはめていきます。「1」は各要素の優れている選択肢、「-1」は劣っている選択肢を意味しています。この数を先ほど作成したハンバーガーに当てはめると、次のようになります。
優れている | 劣っている | |
価格 | 1 | -1 |
和牛パテ | 1 | -1 |
レタス&トマト | 1 | -1 |
その上で、「要素」と「水準値」を直交表に当てはめると以下の通りになります。
水準数 | 2 | 2 | 2 |
価格 | パテ | レタス&トマト | |
メニューA | 1 | 1 | 1 |
メニューB | 1 | -1 | -1 |
メニューC | -1 | 1 | -1 |
メニューD | -1 | -1 | 1 |
ここで水準値を元の選択肢に戻すと、4種類のコンジョイントカードができます。
水準数 | 2 | 2 | 2 |
価格 | パテ | レタス&トマト | |
メニューA | 500円 | 2枚 | 有り |
メニューB | 500円 | 1枚 | 無し |
メニューC | 700円 | 2枚 | 無し |
メニューD | 700円 | 1枚 | 有り |
上図の組み合わせで、「メニューA」「メニューB」「メニューC」「メニューD」を作成すれば、コンジョイントカードの完成です。
作成したコンジョイントカードを用いて、回答者に評価してもらいます。評価方法は主に3通りあります。
● 得点評価
回答者にコンジョイントカードごとの得点をつけてもらいます。得点は1~7点の7段階で、7点が満点となります。
● 一対比較評価
回答者に2つのカードを比較してもらい、どちらが良いかを評価してもらいます。評価は「カード1よりカード2の方が良いと思うか」というように質問し、そう思う時は1点、同じは0点、そう思わないは-1点、となります。この評価は全てのカードの組み合わせで行います。
今回のハンバーガーの例では、得点評価を用いたとします。4人の回答者による結果は以下の通りとなりました。
Aさん | Bさん | Cさん | Dさん | 平均点 | |
メニューA | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 |
メニューB | 3 | 4 | 5 | 3 | 3.75 |
メニューC | 5 | 4 | 4 | 3 | 4 |
メニューD | 4 | 5 | 5 | 5 | 4.75 |
回答結果が得られたら、そのデータをコンジョイント分析します。分析の方法はデータの種類などによって異なります。また、実際の計算作業は専門の分析ツールやエクセルなどの表計算ソフトを使用します。分析方法やツールについてはケースごとに異なりますので、専門家や分析手法に詳しい人からアドバイスを受けることをおすすめします。ハンバーガーの例ではデータ量が大きくないので、表計算ソフトを用いて回帰分析を行います。
回答結果から各メニューの平均点を用いるとともに、計算の便宜上、水準値の「-1」を「0」に変換します。
水準数 | 2 | 2 | 2 | |
価格 | パテ | レタス&トマト | 平均点 | |
メニューA | 1 | 1 | 1 | 7 |
メニューB | 1 | 0 | 0 | 3.75 |
メニューC | 0 | 1 | 0 | 4 |
メニューD | 0 | 0 | 1 | 4.75 |
上図のデータを回帰分析すると、以下の分析結果が得られます。
構成条件 | 変数 | 回帰係数 | 加重平均 | 部分効用値 |
価格 | 500円 | 1 | 0.5 | 0.5 |
700円 | 0 | -0.5 | ||
和牛パテ | 2枚 | 1.25 | 0.625 | 0.625 |
1枚 | 0 | -0.625 | ||
レタス&トマト | 有り | 2 | 1 | 1 |
無し | 0 | -1 |
コンジョイント分析結果を読み取る際、ポイントとなるのは「部分効用値」です。「部分効用値」が意味するところは、その要素が商品選択に際して、どの程度の影響力を与えているかを示しています。
例えばハンバーガーに部分効用値を用いて、商品ごとの魅力度を評価してみましょう。
この調査結果では「レタス&トマト」の影響力が大きいため、「価格 500円、和牛パテ 1枚、レタス&トマト有り」は高い評価となり、「価格 700円、和牛パテ 2枚、レタス&トマト無し」はあまり良い評価を得られませんでした。
また、この調査結果から価格200円の差で±0.5の効用値が発生すると想定すれば、
となり、「価格 900円、和牛パテ 2枚、レタス&トマト有り」は評価の高い商品になることが推定されます。
コンジョイント分析を行う際は、以下のポイントに注意することが大切です。
コンジョイント分析は、調査対象となる回答者によって大きく結果が異なります。そのため、回答者の選定にあたっては「本当に商品を買う意思があるのか?」「商品のターゲット層に合致しているか?」などを、冷静に見極める必要があります。
例えば、先ほどのハンバーガーについては、回答者が女性に偏っていました。そのためコンジョイント分析の結果はそのターゲット層による評価であり、それが「レタス&トマト」の高評価に反映されている可能性があります。もし、「価格 700円、和牛パテ 2枚、レタス&トマト無し」の魅力をしっかりと調べたいのであれば、ハンバーガーにボリューム感を求めるユーザー層を含めて調査する方が適切でしょう。特に「商品購入の意思がない人」の評価が入ると、分析結果の信頼度に大きく影響しますので注意しましょう。
調査項目において使用する水準の設定が不適切な場合、回答者の判断がブレてしまう可能性が高まります。例えばハンバーガーの価格水準を「価格 300円」と「価格 900円」というように大きな価格差を設定してしまうと、回答者の意識がその項目に強く引きずられて、他の要素を冷静に評価できなくなる危険性があります。
水準の設定については、「現実的に設定できる」「回答者が判断に迷う」などの要素を踏まえて決めた方が良いでしょう。
コンジョイント分析の手法は、調査する商品によって大きく異なります。調査を行う際は「商品の特性」と「分析手法」を踏まえたうえで、適切な調査設計を行うことが大切です。「商品の特性」については商品開発に詳しいスタッフ、「分析手法」については統計的手法に詳しい専門家を交えて、どのように調査設計すれば良いかを検討することをおすすめします。「商品の特性」と「分析手法」を踏まえた調査設計を進めることが、コンジョイント分析成功のカギを握っています。
ここまでコンジョイント分析について解説しました。今回紹介したのはあくまで一例であり、この他にも様々な商品開発に活かせる分析手法があります。商品開発の場面で最も大きなトレードオフを生み出す要素は「価格」です。ある意味で、商品開発は「価格」と「その他の要素」との闘いとも言えます。コンジョイント分析は、この悩ましいトレードオフを解決するためのとても有効な手段です。
もし直感だけに頼るのではなく、ロジカルな商品開発を進めたいのであれば、コンジョイント分析は検討に値する分析手法と言えます。ですが、この分析手法をうまく活用するには、相応の知識と経験があるスタッフが不可欠です。社内で専門スタッフを育成するのも一案ですが、効率を考えるのであればまずは専門家に相談することをおすすめします。
コンジョイント分析を上手に活用して、自社のマーケティング活動にぜひ活用してみてください。
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